複数のAIが協調する「マルチエージェントシステム」を徹底解説

複数のAIが協調する「マルチエージェントシステム」を徹底解説

マルチエージェントシステム(Multi-Agent System:MAS)とは、司令塔となるエージェントと、役割分担された複数のエージェントが協調して業務フローをこなす仕組みです。ひとつのAIに何でも任せるのではなく、調査や執筆、チェックといった工程ごとに「担当AI」を置くイメージです。

大規模言語モデル(LLM)の性能向上とともに、企業の現場では「単発のアイデア出し」や「チャットによる質問回答」から一歩進んで、日々のルーチン業務そのものをAIに組み込む動きが加速しています。

特に、コンテンツ制作、問い合わせ対応、バックオフィス業務など、複数の工程で成り立つ仕事において、マルチエージェントシステムは「業務全体をどのように自動化するか」を考える上で重要性が高まっています。

本記事では、ワークフロー型AIエージェント「SamuraiAI(サムライエーアイ)」の開発を手がける株式会社Kivaに所属する筆者が、マルチエージェントシステムの基本的な仕組みから、代表的なプラットフォーム、具体的な活用イメージなど、マルチエージェントシステムについて詳しく解説します。

マルチエージェントシステムの仕組み

マルチエージェントシステム(MAS)は、複数のAIエージェントが役割を分担し、協力して業務を進める仕組みです。単一のAIに長い指示を与えて処理させるのではなく、目的に応じてタスクを分解し、それぞれに適したエージェントへ割り当てる点が特徴です。

◆マルチエージェントシステム(MAS)の仕組み

マルチエージェントシステムの仕組み

マルチエージェントシステムは、司令塔となるエージェント(オーケストレーター)と、各タスクに特化した実行エージェントによって構成されます。それぞれの役割は以下のとおりです。

オーケストレーター(司令塔)

オーケストレーターは、人間から与えられた目的や要件を解釈し、タスクを分解します。その上で、どのエージェントに何を実行させるかを判断し、処理結果を受け取りながらタスク全体を統括します。プロジェクトにおける「マネージャー」や「ディレクター」に相当します。

実行エージェント(ワーカー)

実行エージェントは、文章生成・調査・校正・集計など、特定の作業に特化したAIです。それぞれのタスクを自動的に処理し、中間成果物(テキスト・データ・構造情報)を順に受け渡すことで連携します。

多くの業務向けマルチエージェントシステムでは、このように工程ごとに中間成果物を受け渡す設計が、再現性と品質維持のカギになります。実装によっては、メッセージのやり取りや対話ログのような形式で情報を受け渡すものもありますが、いずれも「役割を分担したエージェント同士が情報をつなぎながら処理を進める」という点は共通しています。

マルチエージェントシステムは、単体のAIに包括的な処理を依頼する方法と異なり、司令塔となるエージェントによる「タスクの分解」と、特化型エージェントによる「役割分担」を組み合わせることで、処理の品質・再現性・拡張性を高めます。複数のAIが工程ごとに成果物を受け渡しながら協調することで、現場の業務フローに沿った自動化を実現できます。

なお、マルチエージェントシステムというと「完成されたアプリケーション」のように聞こえますが、実務では、多くの場合「マルチエージェントシステムを構築するためのプラットフォーム」として提供されています

プラットフォーム側があらかじめ「複数エージェントが連携できる仕組み」を持っており、その上に、各社の業務に合わせたエージェント構成やワークフローを設計することで、固有のマルチエージェントシステムが出来上がります。

次項では、こうしたマルチエージェントシステムを構築するための代表的なプラットフォームを紹介します。

3つの代表的なマルチエージェントシステムのプラットフォーム

マルチエージェントシステムは、ゼロから独自に開発するだけでなく、既存のプラットフォームを使って構築することが一般的です。ここでは、世界的に利用されている代表的な3つのプラットフォームを紹介します。

◆3つのマルチエージェントシステムの比較表

主な特徴

向いている用途

① AutoGen(オートジェン)

複数エージェントの会話(multi-agent conversation)を軸に協調実行。人間参加やツール実行も統合。会話ログで経緯を追いやすい。

調査・要約・方針案の試行錯誤/会話駆動の協調タスク。ビジネスフローの決定論的実行にも拡張可。

② CrewAI

役割・ゴール・ツールを設定したエージェントを「クルー」として編成。高レベルの簡便さと低レベル制御を両立。LangChain等に非依存。

コンテンツ制作・マーケのような役割分担型業務。豊富なツール連携を活かす自動化。

③ LangGraph

状態遷移グラフでワークフローを設計。ループ・条件分岐・HITL・長時間実行に強い。マルチエージェントと(LLM)と通常の関数やAPI(ツール)の混在が可能。

問い合わせ対応や審査など分岐・例外が多いプロセス。

各プラットフォームについて詳しく解説します。

① AutoGen(オートジェン)

AutoGenは、複数のAIエージェントがメッセージをやり取りしながらタスクを進めることを前提にしたプラットフォームです。エージェント同士が「こういう案で進める」「この情報に問題はないか」といったやり取りを行い、そのログを人間があとから確認できます。

イメージとしては、ブレインストーミングをするメンバーが何人かいて、そのやり取りがすべて記録されている状態に近い設計です。

AutoGenの詳細はこちら

② CrewAI(クルーエーアイ)

CrewAIは、「チームとしてのAI」をコンセプトにしたプラットフォームです。エージェントごとに役割(例:リサーチャー、ライター、エディター)とゴールを定義し、それぞれが担当業務をこなしながら、チームとして成果物を作っていきます。

人間のプロジェクトチームに近い構造のため、コンテンツ制作フローやマーケティング施策の実行など、「役割分担で進む仕事」をそのままマルチエージェントに置き換えたい場合に使いやすい設計です。

CrewAIの詳細はこちら

③ LangGraph(ランググラフ)

LangGraphは、マルチエージェントを「状態遷移グラフ構造」で設計できるプラットフォームです。エージェントやLLM、外部APIなどをノードとして配置し、それらを矢印(フロー)でつないでいくことで、複雑な業務プロセスをそのまま表現できます。

特に、条件分岐・ループ・例外処理が多いフローと相性が良く、問い合わせ対応シナリオや、段階的な審査・承認プロセスなどをマルチエージェントで自動化したい場合に採用されることが多いプラットフォームです。

LangGraphの詳細はこちら

マルチエージェントシステムと一口に言っても、「議論しながら結論を出すタイプ」「役割を持つチームとして動くタイプ」「業務フローをグラフとして設計するタイプ」など、プラットフォームごとに得意とする構造が異なります。

重要なのは、自社の業務が「どの型に近いか」を見極めた上でプラットフォームを選ぶことです。

マルチエージェントシステムの3つの活用事例

マルチエージェントシステムは、抽象的なAIの概念ではなく、「業務フローをそのままAIに分担させる」ための実践的な枠組みです。ここでは、企業の現場でイメージしやすいシーンを想定しながら、マルチエージェントシステムがどのように組み込まれるのかを解説します。

活用事例① コンテンツ制作ワークフローへの活用イメージ

オウンドメディアやSEO記事の制作は、「キーワード調査」「構成づくり」「執筆」「校正・推敲」など、複数の工程から成り立っています。ひとりの担当者がすべてを抱えると、記事ごとに品質やスピードのばらつきが生まれやすくなります。

そこで、マルチエージェントシステムを用いることで、これらの工程を役割ごとにエージェントへ切り分け、安定したワークフローとして自動化できます。

マルチエージェントシステムの設計と働き

記事制作のプロセスそのものをマルチエージェントシステムとして設計し、「調査」「構成作成」「執筆」「校正」「メタ情報作成」といった工程を、それぞれ特化したエージェントに分担させます。担当者は、テーマ設定と最終チェックを担い、間の作業はエージェントに任せる形です

◆AIエージェントの働きと順序

工程

入力(※)

処理内容

① 調査

メインキーワード、想定読者、競合サイトのURLなど

検索結果や競合記事を確認し、押さえるべきサブテーマ、読者の疑問、参照すべき情報源などを整理した調査メモを作成する。

② 構成

調査エージェントが出力した調査メモ

記事の目的に沿って、H2/H3レベルの見出し構成と、各見出しで書くべきポイント(要点)をアウトラインとしてまとめる。

③ 文章生成

構成エージェントが作成したアウトライン、トーン&マナーのルール

各見出しの要点をもとに本文の初稿を生成する。文体・敬語・禁止表現などは、事前に与えられたルールに従って整える。

④ 校正・整形

初稿テキスト、表記ルール(用語統一ルールなど)

誤字脱字や文のねじれを修正し、段落構成や接続表現を調整して読みやすく整える。必要に応じて情報の重複や不足も指摘する。

⑤ 要約・メタ情報生成

校正済みテキスト

記事全体の要約文、検索結果に表示するディスクリプション案、SNS投稿文などを生成し、公開・配信に必要なメタ情報を揃える。

※ここでの「入力」は、それぞれのエージェントが処理を始めるときに、前の工程やオーケストレーターから受け取る情報を指します。 ※上記は、実際のプラットフォーム上で定義しうるエージェント構成の一例です。

このように、工程ごとに役割を分けることで、「どの段階で何が生成されるか」が明確になり、記事ごとのばらつきを抑えながら量産しやすい構造になります

コンテンツ制作ワークフローをマルチエージェントシステムとして設計することで、担当者はゼロからの調査・構成・執筆に時間を取られにくくなり、テーマ設定や最終的な内容チェックといった、判断が必要な工程に集中できます。

結果として、記事制作のリードタイム短縮と品質の標準化を両立しやすくなり、オウンドメディア運営を継続的なプロセスとして回しやすくなります。

活用事例② ECサイトの問い合わせ対応ワークフローへの活用イメージ

ECサイトの運営では、「注文に関する問い合わせ」「配送状況の確認」「返品・キャンセルの相談」など、日々多くの問い合わせが発生します。すべてを人手で対応していると、担当者ごとに対応品質がばらつきやすく、ピーク時には返信遅延も起こりがちです。

そこで、マルチエージェントシステムを用いることで、問い合わせの受付からカテゴリ判定、情報取得、回答案作成までの工程をエージェントに分担させ、オペレーターは最終確認と判断が必要なケースに集中できるようにします。

マルチエージェントの設計と働き

問い合わせ対応プロセスのマルチエージェントシステムの設計では、「受付・分類」「情報取得」「回答案作成」「リスクチェック」「オペレーターへの引き継ぎ」といった工程を、それぞれ特化したエージェントに分担させます。担当者(オペレーター)は、エスカレーションされた案件の判断と、最終的な送信内容の確認を担います

◆AIエージェントの働きと順序

工程

入力(※)

処理内容

① 受付・分類

問い合わせ本文、顧客ID、チャネル情報

問い合わせ内容を解析し、「注文内容の確認」「配送状況」「返品・キャンセル」「アカウント関連」などのカテゴリを判定する。また、対応に必要な情報(注文番号・日付など)が不足していないかをチェックする。

② 情報取得

分類結果、顧客ID、注文番号など

受注管理システムや配送システム、会員DBなどから必要な情報(該当注文のステータス、配送状況、過去の問い合わせ履歴など)を取得する。

③ 回答案作成

受付・分類エージェントの判定結果、情報取得エージェントが取得したデータ、FAQ・ナレッジ

FAQや社内ナレッジを参照しつつ、顧客向けの回答案を生成する。トーン&マナーや禁止表現は、あらかじめ与えられたルールに従って整える。

④ リスクチェック

回答案、問い合わせカテゴリ、社内規程(返金・補償ポリシーなど)

回答案の内容が社内規程や契約条件と矛盾していないかをチェックする。返金・クレーム・コンプライアンスに関わる内容が含まれる場合は、「オペレーター要確認」のフラグを付ける。

⑤ オペレーター支援

確定前の回答案、リスクチェック結果、過去の対応履歴

オペレーターが確認すべきポイント(顧客の感情、クレーム履歴、金額インパクトなど)を要約し、最終判断しやすい形で提示する。必要に応じて、代替案(少し条件を変えた対応案)も併せて提案する。

※ここでの「入力」は、それぞれのエージェントが処理を始めるときに、前の工程やオーケストレーターから受け取る情報を指します。 ※上記は、実際のプラットフォーム上で定義しうるエージェント構成の一例です。

このように、工程ごとに役割を分けることで、「どの段階で何が判断され、どの情報を元に回答が作られているか」が明確になり、担当者によるばらつきを抑えながら対応プロセスを標準化しやすくなります

コンタクトセンターやCSチームの問い合わせ対応ワークフローをマルチエージェントシステムとして設計することで、オペレーターはすべての問い合わせに一から回答文を考える必要がなくなり、クレームやイレギュラーな案件など、人間の判断が必要な対応に集中できます。

結果として、初期応答のスピード向上と対応品質の均一化を両立しやすくなり、顧客体験の底上げにつながります。

活用事例③ 経費精算ワークフローへの活用イメージ

経費精算の業務では、申請内容と領収書の突き合わせ、社内規程との照合、部門別・プロジェクト別の集計など、多くの確認作業が発生します。担当者がすべてを手作業で行うと、チェック漏れや判断基準のばらつきが生じやすく、月末・月初には処理が滞る原因にもなります。

そこで、マルチエージェントシステムを用いることで、「入力内容のチェック」「規程との照合」「集計」「管理者向けサマリー作成」といった工程をエージェントに分担させ、担当者は例外対応や最終判断に集中できるようにします。

マルチエージェントの設計と働き

経費精算プロセスにおけるマルチエージェントシステムの設計では、「申請内容の形式チェック」「社内規程との照合」「集計・レポート作成」といった工程を、各エージェントに分担させます。担当者は、不備の多い申請や高額申請の確認、最終承認など、人間の判断が必要なポイントに絞って対応します

◆AIエージェントの働きと順序

工程

入力(※)

処理内容

① 入力チェック

経費申請データ(申請者、日付、金額、勘定科目、用途メモなど)、領収書の有無

必須項目が入力されているか、金額と通貨の形式が正しいか、領収書が添付されているかなどを確認する。不備がある場合は、どの項目に問題があるかをフラグとして付与する。

② 領収書照合

入力チェック済みの申請データ、領収書画像など

領収書から日付・金額・店舗名などをOCRで読み取り、申請内容と突き合わせる。差異が大きい場合や読み取り不能な場合は、要確認フラグを付ける。

③ 規程チェック

照合済み申請データ、社内経費規程(テキスト)、申請区分(出張・交際費など)

社内規程と照らし合わせ、上限金額の超過や認められていない用途が含まれていないかをチェックする。グレーゾーンの申請には「承認者要確認」のフラグを付ける。

④ 集計

規程チェック済みの申請データ一覧、部門・プロジェクト情報

承認候補となる申請を対象に、部門別・プロジェクト別・費目別に集計し、月次レポートのたたき台となる集計テーブルを作成する。

⑤ サマリー作成

集計結果、前月・前年同月のデータ

「前月比で増減の大きい費目」「特定部門で増加している経費」「高額な単発申請」など、管理者が把握しておきたいポイントを抽出し、簡潔なサマリーコメントとしてまとめる。

※ここでの「入力」は、それぞれのエージェントが処理を始めるときに、前の工程やオーケストレーターから受け取る情報を指します。 ※上記は、実際のプラットフォーム上で定義しうるエージェント構成の一例です。

このように、工程ごとに役割を分けることで、「どの段階でどの規程チェックが行われているか」「どのデータをもとに集計・サマリーが作られているか」が明確になり、属人化しやすい経費精算業務を標準化しやすくなります

経費精算ワークフローをマルチエージェントシステムとして設計することで、担当者は伝票チェックや集計作業に追われにくくなり、規程そのものの見直しや、コスト構造の分析といった、より付加価値の高い業務に時間を割けるようになります。

マルチエージェントシステム導入の5つのメリット

マルチエージェントシステムを導入することで、業務フローの設計と運用の仕方が大きく変わります。ここでは、マルチエージェントシステムの導入によって得られるメリットを5つに絞って解説します。

メリット① 業務フロー単位で生産性を高められる

例えば、単一のAIに「企画も構成も執筆も校正もやってほしい」と一度に依頼すると、指示が複雑になるほど出力が不安定になりやすいですが、マルチエージェントシステムでは、あらかじめ「調査」「構成」「執筆」「校正」といった工程に分け、それぞれを得意なエージェントに担当させます。

これにより、個々のエージェントが処理するタスクはシンプルになり、一つひとつの工程の処理時間を短縮しやすくなります。これは、コンテンツ制作や経費精算のように工程がはっきりしている業務ほど、効果が分かりやすく現れます。

担当者はゼロからすべてを作るのではなく、エージェントが生成した成果物を確認・修正する役割に集中できるため、同じ人数でもこなせる件数が増え、全体として大幅な業務効率化につながります。

メリット② 品質と再現性を揃えやすくなる

マルチエージェントシステムの強みは、プロセスを「決まった手順」として固定しやすいことです。例えばコンテンツ制作では、毎回かならず「調査 → 構成 → 執筆 → 校正」という流れを通ることになり、経費精算では「入力チェック → 領収書照合 → 規程チェック → 集計」の順序が守られます。

このように工程を固定しておくと、「どの段階でどのチェックが行われているか」「どこでエラーが発生しうるか」が明確になります。担当者ごとのやり方の違いや、その日のコンディションによる品質の揺れを抑え、一定水準のアウトプットを再現しやすくなります

メリット③ 属人性を減らし、知見を設計として残せる

単一のAIをチャットベースで使っていると、「プロンプトの書き方が上手い人」に業務が依存しがちです。同じモデルを使っているのに、人によって結果が大きく違う、という状況も起きやすくなります。

マルチエージェントシステムでは、「どの工程をどんなルールで行うか」をエージェントの仕様として定義します。例に挙げると「構成エージェントはH2ごとに読者の疑問を1つ以上解消する」「規程チェックエージェントは◯◯円以上の申請に承認者確認フラグを付ける」といったルールを、個人の経験ではなくシステム側に埋め込むイメージです。

これにより、属人的なノウハウが設計情報として残り、人が入れ替わっても業務の水準を保ちやすくなります

メリット④ 業務量の増減に合わせてスケールしやすい

単一のAIをチャットベースで使っている状態では、利用者の数や業務量が増えるほど、「どこまでAIに任せてよいか」を個々人が判断する必要があり、急に全社展開するのは難しくなります

マルチエージェントシステムとして業務フローを設計しておくと、

・エージェントの数やインスタンス数を増やすことで、処理件数をそのまま増やしやすい ・新しい工程を追加する場合も、「エージェントを1つ追加してフローに組み込む」という考え方で拡張できる

という形で、業務量に応じたスケールがしやすくなります。

フロー自体はそのままに、「月10本」の記事制作を「月30本」に増やしたり、「100件」の経費申請を「300件」に増やしたりするなど、業務量の増減に対して、人員を比例させるのではなく、エージェント側の処理能力で吸収しやすくなります。

メリット⑤ プロセスが可視化され管理しやすくなる

マルチエージェントシステムでは、業務をエージェントと工程に分解しているため、「どの段階で何が判断されているか」を追跡しやすくなります。入力チェックで弾かれたのか、規程チェックでフラグが立ったのか、構成の段階でどのような意図が付与されたのかといった情報を、プロセス単位で確認できます。

単一のAIへの指示と出力だけでは、処理の過程がブラックボックスになりがちですが、マルチエージェントシステムでは工程ごとにログを残しやすくなります。これにより、コンプライアンスや監査の観点からも状況を説明しやすくなります

このように、マルチエージェントシステムの導入メリットは、個々のAIモデルの性能差よりも、「業務をどう分解し、どこまでをエージェントに任せるか」という設計にあります。仕事の進め方をプロセスとして整理し直すことで、AIが関わる範囲と人間が判断する範囲の境界が見えやすくなり、現場に定着しやすい形での自動化につながります。

マルチエージェントシステムの最大のリスクは「間違いを自動で増やしてしまうこと」

マルチエージェントシステムを業務で活用する上での最大のリスクは、一箇所のズレや設計ミスが、気づかれないまま自動的に量産されてしまうことです。

単体のAIであれば、入力と出力を見てその場で「これはおかしい」と判断できますが、複数のエージェントが工程ごとに処理を分担する仕組みになると、結果だけを見ても「どこで間違ったのか」が分かりにくくなります。

例えば経費精算であれば、規程チェックの条件が少し甘いだけで、不適切な申請が「正しく承認されたもの」として積み上がっていきます。問い合わせ対応であれば、分類や回答案のロジックがわずかにズレているだけで、不適切なトーンや判断が継続的に顧客へ届けられます。

人間の単発ミスと違い、フローとして間違いが固定され、気付かずに増え続けていく点が、マルチエージェント特有のリスクです

また、フローが複雑になるほど、「なぜこの判断になったのか?」という説明責任も重くなります。

本来は「どのエージェントが」「どの入力を元に」「どんなルールで」判断したのかを追える必要がありますが、ログや監視の設計が甘いと、結果だけが残り、「AIがそう判断したから」という曖昧な説明しかできなくなります。これは、コンプライアンスや顧客対応の観点で大きなリスクになります。

したがって、マルチエージェントシステムを業務に使う際に最も重要なポイントは、「どこまでを自動化し、どこからを人間の判断にするか」を明確に決めた上で、誤った自動化を増やさないための設計にすることです。

◆マルチエージェントシステムを利用する際のポイント

・最終承認や例外判断は人間が行う最終フローとして残すこと ・工程ごとに「何を入力にして、何を出力しているのか」をログとして記録すること

この2つをセットで考えておくことで、リスクを最小限に抑えることができます。

まとめ

マルチエージェントシステムは、司令塔となるオーケストレーターがタスクを分解し、特化型エージェントが工程ごとに成果物を受け渡しながら処理を進めることで、業務フロー全体の生産性・品質・再現性を高めやすくなる仕組みです。

ただし、ビジネス利用においては、どこか一箇所の設計ミスやルールのズレがフローとして固定され、誤った処理や結果が静かに自動量産されてしまうリスクもあります。

だからこそ、どの業務をどこまで自動化し、どこから先を人間の判断に残すのかを決め、工程ごとのログや最終承認のポイントを設計しておくことが欠かせません。

なお、一般的に提供されているマルチエージェントシステムは、「マルチエージェントシステムを構築するためのプラットフォーム」であることが多く、自社でエージェント構成やフローを設計していく前提となっています。

一方で、まずは日々の業務を「ワークフロー単位」で安定して自動化したいというニーズに対して、弊社ではワークフロー型AIエージェント「SamuraiAI」を提供しています。

SamuraiAIは、自然言語で指示するだけでAIが意図を解釈し、あらかじめ定義した手順に沿って必要なPC操作を自律的に実行する「実務向けのワークフロー実行エージェント」です。

コンテンツ制作、問い合わせ対応、バックオフィス業務など、本記事で紹介したようなプロセスについても、まずは単一のワークフローエージェントとして自動化し、その延長線上にマルチエージェント的な分担や拡張を見据える、というステップを取ることができます。

最先端のワークフロー型AIエージェント「SamuraiAI」の詳細については、下記公式サイトをご覧ください。

SamuraiAI 公式サイト