AXとは「AI導入で業務や事業の進め方を変える取り組み」

企業のAI活用が加速する中、その取り組みをさらに一歩進めた概念として「AX(AIトランスフォーメーション)」への注目が高まっています。
AXとは、AIを業務・サービス・意思決定の中に組み込み、企業活動そのものを変革する取り組みです。単なるAIツールの導入ではなく、AIを前提に組織や業務プロセスを再設計することを指します。
AX推進の背景には、AI活用の急速な広がりがあります。一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査によると、言語系生成AIを「導入済み・試験導入中・導入検討中」と回答した企業は2025年時点で41.2%と、前年の26.9%から1年で大幅に増加しています。
このように企業のAI利活用が急速に進む中、AIを使いこなせる企業とそうでない企業の差は、今後さらに広がると考えられます。そのため、AXへの理解と実践は、多くの企業にとって急を要する経営課題になりつつあります。
この記事では、ワークフロー型AIエージェント「SamuraiAI」の開発を手がける株式会社Kivaに所属する筆者が、AXについて詳しく解説いたします。
AXに取り組む国内企業3社の事例
まずは、AXを推進している国内企業の取り組みを3件紹介します。業種も異なる3社ですが、いずれも「AIをツールとして使う」という段階をすでに超えているという点で共通した事例です。
AXの事例① アフラック生命保険:DX推進部を廃止し、AXを冠した専門部署へ移行
アフラック生命保険は、2026年1月からの組織変更で「DX推進部」を廃止し、AIを主軸とした先進技術を活用したビジネス変革(AX)を全社で推進することを目的として、新たに「AX戦略統括部」と「AX開発部」を設立しました。 同社のAX戦略は、これまでのDX戦略をAIの活用を中心に据えてさらに発展させるものであり、AIを単なる効率化ツールとして使うのではなく、企業の中核能力として位置づけ、人とAIが密接に協働することで、顧客体験や保険代理店支援、社員の働き方そのものの再創造を目指します。
具体的な取り組みとしては、Salesforceが提供するAIエージェント「Agentforce」により、保険募集人向けの問い合わせ支援を行っております。
募集人がお客様からの質問に回答する際、従来は複数のマニュアルや約款を手作業で確認していましたが、Agentforceが複数の資料を横断的に参照して回答を返すようになりました。また、複数の訪問先を伝えると最も効率的な訪問ルートを提案する営業支援にも活用されています。
今後は保険の提案から申し込み、保険金支払いまで、募集人業務全体にAIエージェントを組み込む計画です。
AXの事例② パナソニックコネクト:生成AIの「使い方の変化」により年間44.8万時間の業務削減を実現
パナソニックコネクトは、2023年2月から国内全社員を対象に、独自開発のAIアシスタント「ConnectAI」の導入を開始しました。
導入から1年間(2023年6月〜2024年5月)の業務時間削減効果は全社で18.6万時間、2024年度にはその効果が44.8万時間に拡大し、前年比で2.4倍の成果を記録しています。 同社の取り組みにより、削減時間の数字だけではなく、AIの使われ方が変化しています。導入初期は検索エンジンの代替のような単純な用途が中心でしたが、その後は戦略策定の基礎データ作成や商品企画など、人の判断を要する業務へと活用範囲が広がっています。
引用:パナソニックコネクト、「聞く」から「頼む」へシフトしたAI活用で年間44.8万時間の削減を達成(Panasonic Newsroom Japan)
AXの事例③三菱UFJ銀行:「AI-Nativeな企業」を掲げ、全行員へのAI展開と経営基盤のAI化を推進
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は2025年11月、OpenAIとの戦略的コラボレーション契約を締結し、「AI-Nativeな企業への変革」を公式のスローガンとして打ち出しました。
この契約に基づき、2026年1月以降、三菱UFJ銀行の全行員約35,000人を対象にChatGPT Enterpriseを順次展開しています。
社内文書作成や調査対応、顧客対応、分析業務など幅広い業務での活用を想定しており、行員一人ひとりがより付加価値の高い判断や顧客との対話に集中できる環境を段階的に整えるとしています。
それ以前に、同社ではAIを軸にした業務体制の構築を進めてきており、2025年4月には、社内に分散していたAIモデル開発プラットフォームをDatabricksの基盤に統合、同年8月には、日本の金融機関として初めて金融業界向けAIエージェント「Agentforce for Financial Services」を選定し、営業支援と顧客体験の変革を進めています。
引用:AI を活用した業務改革およびリテール領域の新サービス創出に向けた取り組みについて(2025年11月12日 三菱UFJ銀行公式プレスリリース)
この3件の事例からわかるのは、AXが「AIツールを導入した」という段階の話ではないということです。いずれも、業務の一部を効率化したのではなく、AIを前提に組織・経営のあり方を変えている点が共通しています。
DXとAXの違い:AXはDXの延長にある「AI前提の変革」
ここでは、AXとDXの違いと、両者の関係を整理します。
◆DXとAXの関係

図のように、AXはDXを土台として成り立っています。DXでデータ基盤・業務プロセス・システム連携・組織体制を整えた上に、AIを組み込んだ変革としてAXが位置づけられます。
DXは、データやデジタル技術を活用して、業務・顧客体験・ビジネスモデル・組織文化を変えることです。経済産業省は、DXを「データとデジタル技術を活用して、製品・サービス・ビジネスモデルを変革するとともに、組織・プロセス・企業文化を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
例えば、紙の注文書をWeb受注に変える、顧客情報をCRMで一元管理する、ECと在庫システムを連携するといった取り組みがDXになります。
一方でAXは、AIを業務・商品・サービス・意思決定に組み込み、業務や事業の進め方そのものを変える取り組みです。
過去の売上データからAIが需要予測する、問い合わせ内容をAIが分類して回答案を作る、AIエージェントが業務フローの一部を自律的に処理するといった取り組みがAXになります。
◆DXとAXの違い
DX | AX | |
|---|---|---|
中心技術 | デジタル技術全般 | AI・生成AI・機械学習・AIエージェントなど |
主な目的 | 業務・顧客体験・ビジネスモデルの変革 | AIを使った業務・意思決定・サービスの高度化 |
変革の対象 | 業務プロセス、組織、顧客接点 | 人の判断、作業、分析、顧客対応、開発など |
取り組み例 | EC化、CRM導入、業務システム刷新 | 需要予測、AIエージェント、自動コンテンツ生成 |
例えばEC事業なら、以下のように切り分けられます。
◆EC事業を例にしたAXとDXの切り分け
取り組み | AX / DX |
|---|---|
ECサイトを構築する | DX |
POS・在庫・ECを連携する | DX |
顧客データをCRMで一元管理する | DX |
AIで需要予測する | AX |
AIで商品説明文を作成する | AX |
AIチャットボットで問い合わせ対応を補助する | AX |
AIエージェントが広告改善案を出す | AX |
重要な点は、DXが進んでいない状態でいきなりAXに取り組んでも成果は出にくいことです。なぜなら、AIは「使えるデータ」「整理された業務プロセス」「明確な目的」がないと機能しにくいためです。
データが分散し、業務が属人化し、システムが連携していない状態でAIだけ導入しても、活用の方向が定まらないまま終わります。AXを推進するには、AIの導入そのものではなく、AIを活用できるデータ基盤や業務設計、組織体制を整えることが重要になります。
AXの推進において重要な6つのポイント
ここでは、AXを推進する際に特に意識しておきたい6つのポイントを紹介します。
ポイント① 経営層が明確に宣言し、全社の取り組みとして位置づける
AXは現場主導では進みません。予算・人材・組織を動かせるのは経営層だけであり、トップが「AIを前提とした変革を行う」と宣言することが出発点になります。
本記事のアフラックの事例において、同社がDX推進部を廃止してAX専門部署を新設したのは、まさにこの宣言を組織の形で示した例です。名称変更にとどまらず、意思決定の構造を変えたという点に意味があります。
「現場が個別にAIツールを使っている」状態と、「経営がAXを全社戦略として掲げている」状態では、変革の深さがまったく異なります。
ポイント② AIが機能する前提として、データ・業務・目的を整える
AXに取り組む前に、AIが機能するための土台を確認する必要があります。確認すべき点は以下の3つです。
◆AXに取り組む前に確認すべき3点
使えるデータが整っているか
業務プロセスが整理されているか
目的が明確に設定されているか
まず、データを使える形にします。顧客データが基幹システム、あるいはExcelや紙台帳に分散している状態では、AIはデータを参照できません。以下のようなデータ整備が必要になります。
◆データ整備の例
データの所在を明確にする
データ形式や項目を統一する
古いデータや重複データを整理する
AIに利用できるデータと利用すべきでないデータを分ける
データの管理責任者や更新ルールを決める
次に業務プロセスを整理します。「担当者が経験と勘で対応している」という属人化した業務は、AIに委ねる設計ができません。業務の流れを可視化・標準化して初めて、どこをAIに任せるかが決まります。
そして、明確な目的を設定することも重要です。「AIで業務を効率化したい」では目的としては不十分です。例えば「問い合わせ対応の平均処理時間を30分から5分に短縮する」のように、測定できる形で目的を定めることが必要です。
目的が曖昧なままでは、AIが機能しているかどうかの判断もできません。
ポイント③ 全業務に導入するのではなく、AIに委ねる範囲を絞って設計する
AIを導入する際によくある失敗のひとつが、「とりあえず全体に入れてみる」というアプローチです。AXにおいては
「どの判断・作業をAIに任せるか」
「どこに人間が関与するか」
を最初に設計することが重要です。
例えば、本記事で紹介したパナソニックコネクトの事例では、導入初期は検索エンジンの代替のような単純な用途が中心でしたが、その後は戦略策定の基礎データ作成や商品企画など、より判断を要する業務へと活用範囲を段階的に広げています。
最初から範囲を絞り、効果を確認しながら拡大していくのが、AXを機能させるうえで現実的な進め方といえます。
ポイント④ AI人材と業務人材をつなぐ体制を作る
AXには、AIに詳しい人材だけでなく、業務を深く理解している人材も必要です。AIの技術だけを理解していても、現場の課題がわからなければ有効な活用方法は設計できません。
一方で、現場業務に詳しくても、AIの特性や限界を理解していなければ、適切な使い方はできません。そのため、AXでは以下のような体制が求められます。
◆AXにおける部門ごとの体制
経営層:AXの目的と投資判断を担う
AI・IT部門:技術選定やデータ連携を担う
現場部門:業務課題や活用シーンを具体化する
管理部門:リスク管理やルール整備を担う
AXは、特定部署だけで完結する施策ではありません。部門横断で進めなければ、局所的な効率化で止まりやすくなります。
ポイント⑤ 小さく始めて効果検証を行う
AXは、最初から全社規模で導入するよりも、効果が見えやすい業務から小さく始める方が現実的です。例えば、以下のような業務は初期導入に向いています。
◆初期導入に向いている業務
FAQ作成
議事録作成
メール文面作成
レポート要約
顧客問い合わせの分類
商品説明文の作成補助
営業資料のたたき台作成
そして重要なのは、導入後に「便利になった」で終わらせず、作業時間の削減、対応件数の増加、回答品質の改善、売上貢献などの指標で効果を確認することです。
ポイント⑥ AIガバナンスとリスク管理を整備する
AXを進めるうえでは、リスク管理も欠かせません。AIには、誤情報の生成、情報漏えい、著作権侵害、偏った判断、説明責任の不明確化などのリスクがあります。
そのため、企業がAXを推進する際は、以下のようなルール整備が必要です。
◆AXを進める上での整備すべきルールの例
機密情報や個人情報をAIに入力しないルール
AI生成物の確認・修正フロー
著作権や引用に関するルール
AIの利用ログや履歴管理
誤回答やトラブル発生時の対応フロー
AI利用に関する社内教育
AIの活用範囲が広がるほど、リスクも広がります。AXでは、スピードだけでなく、安全に使い続けるための管理体制も重要になります。
なお経済産業省と総務省は、生成AIの普及を含む技術変化に対応するため、既存のAI関連ガイドラインを統合・アップデートした「AI事業者ガイドライン」を取りまとめていますので、AXを進めていくにあたって必ず目を通しておくと良いでしょう。
AX推進の軸となる「AIエージェント」の活用
AXは「AIを前提に業務や事業の進め方を変える取り組み」です。しかし、チャット型AIを使うだけでは、業務を動かすのは依然として人間です。
自律的にタスクを遂行する「AIエージェント」が業務フローの中に組み込まれて初めて、「AIが実際に働いている」状態になります。この状態こそがAXの実現であり、弊社が提供する「SamuraiAI」のようなAIエージェントはその実行を担う中心的な存在です。
◆SamuraiAIの操作画面

参考:SamuraiAI
ChatGPTをはじめとするチャット型AIは、質問を入力すると回答を返してくれます。文章の作成や情報の要約など、さまざまな場面で役立ちますが、その答えをもとに実際に業務を動かすのは人間です。
AIエージェントは、この「実行」の部分をAI自身が担います。目標や手順をあらかじめ設定しておくと、AIが状況を判断しながら必要な操作を自律的に進めます。人間が都度指示を出す必要はなく、AIが業務フローに沿って一連の作業を処理します。
◆チャット型AIとAIエージェントの比較
チャット型AI | AIエージェント | |
|---|---|---|
役割 | 質問に答える | 業務を自律的に実行する |
実行者 | 人間 | AI |
繰り返し作業 | 毎回指示が必要 | ワークフローとして自動化できる |
AXへの貢献度 | 補助的 | 直接的 |
AXを推進する組織では、AIエージェントは単一の業務を自動化するツールとしてではなく、複数の業務プロセスをつなぐ実行層として機能します。
例えば、顧客からの問い合わせを受信し、内容を分類し、対応案を作成し、担当者に通知するという一連のフローを、AIエージェントが人間の介在なしに処理することができます。
従来であれば複数の担当者が分担していた作業が、AIエージェントによってひとつの流れとして自動化されます。
また、AIエージェントは単発の自動化にとどまらず、積み上げていくことができます。最初は一部の定型業務から始め、効果を確認しながら対象範囲を広げていくことで、AIが担う業務の割合を段階的に高めることができます。
現在は、SamuraiAIのようにノーコードで業務ワークフローを構築できるAIエージェントにより、IT専門知識がなくても現場担当者が自ら自動化を設計・実行できる環境が整っています。
AXを推進する上で、AIエージェントの活用は選択肢のひとつではなく、変革を実行するためのプラットフォームとして位置づけるべきものといえます。
AX推進にあたって求められる人材とは?
AXを推進していくうえで、AIエンジニアやデータサイエンティストのような専門家は欠かせませんが、彼らだけではAXは成功しません。現場業務においてAIを使う社員のスキルや意識が、AXの成果に大きく影響します。
AXで求められる人材像は、自分の業務を深く理解した上でAIを適切に使いこなせる人材です。つまり、「AIに何を任せ、どう指示し、その出力をどう判断するか」を業務の文脈の中で考えられる人材です。
そのために必要なスキルは、大きく以下の2つに整理できます。
◆AX推進にあたって重要になる2つのスキル
AIリテラシー
プロンプト設計力
AIリテラシーは、AIができることとできないことを理解し、出力の正確さを自分で検証できる能力です。プロンプト設計力は、業務の目的を言語化し、条件や制約を具体的に伝え、出力が期待と違った場合に改善できる能力です。
この2つのスキルの土台にあるのは、業務を分解して考える力です。「この作業は何のためにやっているのか」「どのステップをAIに任せられるか」を整理できる人材は、AIがどれだけ進化しても価値を発揮し続けます。
また、AIを適切に扱うガバナンス意識も必要です。ただし、これは個人のスキルとして捉えるよりも、組織として育てるべきものとして位置づけることが重要です。
個人情報や機密情報の取り扱い、著作権・法務リスクへの理解、社内利用ルールの遵守は、AX推進を担う全員が共通して持つべき認識であり、研修や規程の整備を通じて組織全体で底上げするものです。
AXは全社で動くべき経営課題
本記事ではAXについて詳しく解説しました。AXを推進するにあたって重要なのは、AI活用を一部門の取り組みとせず全社テーマとして取り組むことです。
マーケティング部門がAIツールを使う、開発部門が生成AIを試す、という段階はDXの延長にすぎません。経営層が旗を振り、データ基盤から人材育成まで全社で動くことでAXは推進されます。
特定の担当者が個別にAIを活用している状態と、組織としてAIを前提に業務を設計している状態では、生み出せる成果の規模がまったく異なります。
先行する企業はすでにAIエージェントを業務フローに組み込み、人間が担っていた作業を自動化・高度化しています。AIを活用できる組織とそうでない組織の間には、すでに差が生まれ始めており、着手が遅れるほど追いつくためのコストも大きくなります。
AXの取り組みを始めるにあたって、最初から大規模なシステム投資をする必要はありません。まずは定型業務のひとつをAIエージェントで自動化することから始め、効果を確認しながら範囲を広げていく進め方が現実的です。
弊社が提供するワークフロー型AIエージェント「SamuraiAI」は、ノーコードで業務ワークフローを構築でき、IT専門知識がなくても現場担当者が自ら自動化を設計・実行できます。スモールスタートから始めるAXの実行手段として、ぜひ導入をご検討ください。
SamuraiAIについて詳しくは、下記の公式サイトをご覧ください。