AI時代に「絶対欠かせないAIガバナンス」構築法を全解説

AIガバナンスとは、AIの活用によって生じるリスクを管理しながら、そこから得られる便益を最大限に引き出すための、技術・組織・社会にわたる仕組みづくりとその運用を指します。
生成AIの普及によってAIの活用は中小企業にまで広がっており、それに伴い国内外の規制も強化されています。企業・個人を問わずAIを活用するAI時代が到来した今、企業にとって、AIガバナンスへの対応はもはや先送りできない状況になっています。
一方で、AIガバナンスの体制が整っていない状態でAIの活用を進めると、個人情報保護法違反による行政指導や、機密情報の外部流出、AIの誤った出力をそのまま業務に用いてしまうことによるトラブルなど、さまざまなリスクにさらされることになります。
社内で実際にAIガバナンスを構築するためには、以下の5つのステップを運用サイクルとして繰り返していきます。
◆AIガバナンス構築の5ステップ
① 環境・リスク分析
② ゴール設定
③ システムデザイン
④ 運用
⑤ 評価
AIの導入をむやみに急ぐ前に、AIガバナンスの基本と実践方法をしっかり理解しておきましょう。
この記事では、AXプラットフォーム「SamuraiAX」の開発を手がける株式会社Kivaに所属する筆者が、このAI時代の企業にとって、絶対に欠かせないAIガバナンスの基本的な考え方から、企業が実際に取り組むべき構築手順までをわかりやすく解説します。
AIガバナンス体制は「5つのステップを繰り返しながら」構築する
ここでは、社内でAIガバナンスを構築する具体的な手順を紹介します。
総務省・経済産業省による「AI事業者ガイドライン」は、AIガバナンスを一度整備して終わるものではなく、環境の変化に応じて継続的に見直す「アジャイル・ガバナンス(※)」の考え方を採用しています。この考え方では、AIガバナンスは以下の5つのステップを繰り返すサイクルで構築していきます。
◆AIガバナンス構築の5ステップ

出典:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)概要」 ※一部筆者加工
以下に、各ステップについて詳しく解説します。
ステップ① 「環境・リスク分析」では、自社が使っているAIとそのリスクをすべて洗い出す
最初に行うのは、「社内でどのAIがどの業務に使われているか」を正確に把握することです。このとき、正式に導入したAIツールだけでなく、従業員が個人の判断で利用している生成AIサービスも対象に含める必要があります。
申告されていないAI利用は、問題が起きた際に責任の所在が曖昧になりやすく、ガバナンスが機能しない大きな要因になります。
洗い出したAI利用の一つひとつを、後述する「法的リスク」「倫理・人権リスク」「セキュリティ・ガバナンスリスク」「運用・組織リスク」の4系統に照らし合わせ、どのリスクに該当するかを整理します。
ステップ② 「ゴール設定」では、優先的に対応すべきリスクを絞り込み、達成基準を定める
洗い出したリスクのすべてに同じ水準で対応しようとすると、現場の負担が大きくなり、ルールが形骸化する原因になります。
そのため、リスクごとに、発生した場合の深刻度と発生する可能性の高さを見積もり、優先的に対応すべき項目を絞り込みます。あわせて、何をもって対応が十分と判断するか、達成基準もこの段階で決めておきます。
ステップ③ 「システムデザイン」では、現場で使えるレベルまでルールと運用フローに落とし込む
設定したゴールを実現するための、具体的な仕組みを設計する段階です。AIの利用可否を判断する基準、機密情報や個人情報を入力しない範囲の明確化、AIの出力を業務に使う前の確認手順などを、現場の担当者がそのまま使える水準まで具体化します。
ここでのポイントは、できるだけ具体的な仕組みを設計することです。抽象的な方針を示すだけでは、現場での判断が担当者ごとにばらつき、ルールとして機能しません。
ステップ④ 「運用」では、設計した仕組みを実際の業務に適用する
システムデザインで設計したルールやフローを、現場で実際に動かす段階です。導入直後は、ルールが実際の業務の流れに合っているか、現場から想定外の運用が出ていないかを注視する必要があります。
ステップ⑤ 「評価」では、運用状況を点検し、ステップ①に戻って改善する
運用状況を定期的に点検し、新しいAIサービスの登場や規制の変化など、外部環境の変化を踏まえて見直します。点検の結果は、次のステップ①の環境・リスク分析に反映させます。
以上の5つのステップを一度きりで終わらせず、繰り返し回し続けることが、AI事業者ガイドラインが重視するアジャイル・ガバナンスの考え方です。
このサイクルを機能させるには、経営層のコミットメントによって、各組織の戦略や体制、文化としての浸透を図ることが欠かせません。
人材大手のPERSOLは、具体的な受け皿として、経営層、法務部門、情報システム部門、AIを実際に活用する事業部門を横断するAIガバナンス委員会の設置が実務的な形になるとしています。
委員会は、全社的な基本方針の策定、リスク分析の実施、ガイドラインの承認、問題発生時の対応責任の明確化を主導し、設置段階から法務・事業部門を巻き込むことで、現場の実態と乖離しないルール作りにつながるとしています。
出典:PERSOL「AIガバナンスとは?企業が今取り組むべきリスク管理のポイントを解説」
委員会の設置段階から法務・事業部門を巻き込むことで、現場の実態と乖離しないルール作りにつながります。
※アジャイル・ガバナンス 経済産業省が2021年の報告書「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2」で示した考え方。事前にルールを固定するのではなく、複数の関係者が環境の変化を継続的に分析し、対応策を高速に回転させ続けることで、変化の速い社会に対応しようとするガバナンスモデルを指す。
AIガバナンスで管理すべき4つのリスク
AIガバナンスで管理すべきリスクは、大きく4系統に分類できます。ここでは、それぞれの内容を実際に起きた事例とともに紹介します。
◆AIガバナンスで管理すべきリスクの4系統
系統 | 該当する指針 | 管理対象の具体例 |
|---|---|---|
① 法的リスク | プライバシー保護、公正競争確保 | 個人情報保護法等の法令違反、データの不適切な第三者提供 |
② 倫理・人権リスク | 人間中心、公平性 | AIの判断に潜むバイアス、人権への配慮不足 |
③ セキュリティ・ガバナンスリスク | セキュリティ確保、透明性、アカウンタビリティ | 機密情報の外部流出、判断プロセスの説明不能 |
④ 運用・組織リスク | 安全性、教育・リテラシー | 誤情報の業務利用、AIの出力を検証しない運用 |
この4系統は、経産省・総務省のAI事業者ガイドラインが掲げるAI事業への取り組みの指針を、実務の観点から筆者が独自に整理したものです。
参考:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)概要」
以下に、それぞれの内容を事例とともに紹介します。
系統① 法的リスク
AIが取り扱うデータの扱い方に起因する法令違反のことです。
2023年6月、個人情報保護委員会は、生成AI「ChatGPT」を開発・提供する米OpenAIに対し、個人情報保護法第147条に基づく注意喚起を行いました。
本人の同意を得ないまま人種や病歴等の要配慮個人情報を取得しないこと、機械学習のためのデータ収集において要配慮個人情報が含まれないよう対応すること、個人情報の利用目的を日本語で通知することなどを求めています。
生成AIは大量のデータを学習に利用する性質上、法令が求める配慮を欠いたデータの取り扱いが生じやすく、開発・提供事業者だけでなく、利用する事業者側にも入力データの扱いに注意が求められます。
出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
系統② 倫理・人権リスク
AIの判断が特定の属性を持つ人に対して不当な結果をもたらすことです。
2018年、Amazonは応募者の履歴書を評価する採用AIを開発していましたが、過去10年分の履歴書データの大半が男性のものだったため、AIが女性の評価を低くする傾向を学習してしまい、プロジェクトを中止しました。
アマゾンの広報担当者は「このシステムが同社のリクルーターによる採用候補者の評価に使われたことはない」とコメントしています
学習データに偏りがあれば、AIの判断にも同様の偏りが引き継がれるため、開発段階でのデータ構成を確認する仕組みが欠かせません。
出典:Business Insider Japan「アマゾンの採用AIツール、女性差別でシャットダウン」
系統③ セキュリティ・ガバナンスリスク
AIサービスの利用を通じて情報が意図せず外部に渡ることです。
2023年、サムスン電子の社員が業務効率化のために社内の機密ソースコードをChatGPTに入力したところ、その内容が外部のサーバーに送信される形となり、同社は生成AIの社内利用を禁止しました。
サムスンは、入力したデータがOpenAIなどAIサービス運営企業のサーバーに保存され、容易にアクセスや削除ができなくなることに加え、共有した機密データが最終的に他の利用者に提供されてしまう可能性を懸念していました。
生成AIに入力した情報は、サービス提供事業者のサーバーを経由するため、機密情報や個人情報の入力そのものが漏洩リスクになります。
出典:Forbes JAPAN「サムスン、ChatGPTの社内使用禁止 機密コードの流出受け」
系統④ 運用・組織リスク
AIの出力を十分に検証しないまま業務に用いることです。
2023年、米国の弁護士がChatGPTを使って民事訴訟の準備書面を作成したところ、実在しない判例を6件引用していたことが裁判所の指摘で発覚しました。
この事案を審理したニューヨーク州連邦裁判所の裁判官は、「インチキな引用を使ったインチキな司法判断が記述された資料が提出された」と指摘し、弁護士の懲戒処分の是非を判断する審理を開くとしています。
生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく生成することがあり、AIの回答をそのまま採用せず、人が最終確認する運用体制が欠かせません。
出典:日本経済新聞「ChatGPTで資料作成、実在しない判例引用 米国の弁護士」
AIガバナンスが求められる背景:AI活用の拡大に伴うリスクの顕在化と国内外の規制強化
中小企業においても、AIの活用はすでに一部の企業に限られた動きではなくなっています。中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した調査によると、AIを既に導入している中小企業は20.4%にのぼり、導入を予定・検討している企業を合わせると39.0%に達しています。
◆AIの導入状況

出典:中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」 ※一部筆者加工
また、導入されているAIサービスのうち、生成AIの利用率は82.6%と他のAI技術を大きく引き離しており、文章作成やアイデア出しといった日常業務への浸透が進んでいることが分かります。この活用の広がりは、同時にリスクが顕在化する場面の広がりでもあります。
前項で紹介した、個人情報保護委員会によるOpenAIへの注意喚起や、サムスン電子の情報漏洩、米国弁護士による虚偽判例の引用といった事例は、いずれもAIの活用が一部の先進企業や専門家に限られていた時期ではなく、生成AIが一般的な業務ツールとして普及し始めた時期に発生しています。利用者の裾野が広がるほど、リスクが表面化する機会も増えていきます。
このような状況の中、国内外の規制は短期間で強化が重ねられています。国内では、AI事業者ガイドラインが2年間で2回改定されているのに加え、2025年には新たにハードロー(※)の動きも生まれました。
「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI法)が2025年5月28日に国会で成立し、6月4日に公布・一部施行、9月1日に全面施行されています。これは、日本で初めてAIそのものを対象とした法律です。
参考:内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」
海外でも同様の動きが進んでいます。EUではAI Actの適用が段階的に進んでおり、対象範囲や適用時期をめぐる見直しも続いています。
AIの活用が一部の企業に限られていた段階では、リスクへの対応は個々の事業者の判断に委ねられる部分が大きいものでしたが、活用が中小企業にまで広がり、リスクが実際の事例として表面化し、国内外で法整備が進んだことで、AIガバナンスはもはや一部の先進企業だけの課題ではなく、AIを利用するすべての企業が取り組むべき経営課題になっています。
※ハードロー 法律や政令など、国が制定し違反時に罰則や強制力を伴う規範。これに対し、AI事業者ガイドラインのように法的強制力を持たず自主的な取り組みを促す規範はソフトローと呼ばれる。
AIガバナンスに取り組む企業が抱える3つの課題
ここでは、AIガバナンスに取り組む企業が実際に直面する課題について解説します。
課題① コスト・人材・ノウハウの不足が、AI導入とガバナンス構築を妨げている
中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した調査によると、AI導入を予定または検討している企業では、以下の3点が導入の阻害要因として上位に挙げられています。
◆AI導入の阻害要因(導入を予定・検討中の企業)
導入にあたっての高コスト:61.0%
社内のAIノウハウ不足:59.3%
社内のAI人材不足:53.7%
引用:中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(表8)
AIガバナンスを構築するには、AIの技術的な特性とリスクの両方を理解した人材が必要になりますが、この調査結果では、その前提となる人材やノウハウの確保、導入コストの負担そのものが課題になっている実態が示されています。
課題② ガバナンス構築に振り向けられる経営資源が乏しい
資金や人材に余力がある大企業と異なり、中小企業ではガバナンス構築に振り向けられる経営資源そのものが限られています。
中小企業基盤整備機構の調査では、AI・IT導入予定がないと回答した企業の93.1%が従業員30人以下の小規模層であり、資金や人材を当面の業務維持に優先せざるを得ない実態が指摘されています。
◆従業員別の導入状況(上)と売上高別の導入状況(下)

出典:中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」 ※一部筆者加工
ガバナンス委員会の設置や専門人材の確保には一定の体制投資が必要になりますが、日々の業務を回すだけで手一杯の企業にとって、この投資判断自体のハードルが高くなります。
課題③ 規制やガイドラインの改定に、社内の対応が追いついていない
国内外のAIガバナンスに関する規制・ガイドラインは、下記のように短期間で改定が重ねられています。
◆規制・ガイドラインの改定推移
2024年4月:AI事業者ガイドライン第1.0版公表
2025年3月:AI事業者ガイドライン第1.1版に改定
2026年3月:AI事業者ガイドライン第1.2版に改定
2026年6月:EUがAI Actの高リスクAI義務の適用時期を延期する見直し案を承認
一度整備したルールや体制を固定的に運用していると、こうした改定のたびに対応が後手に回りやすくなります。
「AI事業者ガイドライン」はAIガバナンスに取り組む上で必ず確認しておくべきガイドライン
本記事執筆にあたって、度々「AI事業者ガイドライン」を引用してまいりました。このガイドラインは、総務省と経済産業省が策定した、国内のAIガバナンスにおける統一的な指針です。
本編で「どのような社会を目指すのか」「どのような取り組みを行うか」という基本的な考え方を示し、別添で「具体的にどのようなアプローチで取り組むか」という実践方法を示す、二層構造になっています。
これから取り組みを始める企業向けには「AI事業者ガイドライン活用の手引き」という補助資料も公表されています。ガイドライン内の該当箇所を参照しながら使える構成になっており、どこから手をつければよいか分からない企業でも読み進めやすい内容です。
本記事で紹介したリスクの4系統も、構築の5ステップも、すべてこのガイドラインを土台にしています。自社の状況に当てはめて具体的に検討する際は、ガイドライン本編と手引きに直接目を通しておくことを強くおすすめします。
参考:総務省「『AI事業者ガイドライン』掲載ページ」
まとめ
AIの活用は、生成AIの普及とともに中小企業にまで広がっており、それに伴いリスクが実際の事例として表面化する場面も増えています。
国内では2026年3月に「AI事業者ガイドライン」が第1.2版に改定され、2025年には「AI法」も施行されました。このAI時代、AIを利用するすべての企業にとって、ガバナンスはもはや先送りできる課題ではありません。
一方で、AIガバナンスの構築には、コスト・人材・ノウハウの不足という課題があります。そのため、体制の構築だけでなく、それを支えるツールの活用も有効です。
株式会社Kivaが提供する「SamuraiAX(サムライ エーエックス)」は、Microsoft 365とClaude、Gemini、ChatGPTを連携させ、大手企業のコア業務を自動化・改善し、AXを丸ごと推進するソリューションです。
サービスの強みの一つとして、全社のAI利用を可視化・統制し、属人化しない運用を実現する「AI運用ガバナンス」を備えています。各部署のAIエージェントへの指示はスーパーバイザーが全体の文脈を保持したうえで行われ、各接続点には必ず人の承認を挟む設計になっています。
操作履歴は監査ログとして記録され、権限単位で利用を制御できるほか、入力・実行データはAIの学習には利用されません。本記事で紹介した5ステップのサイクルのうち、システムデザインや運用、評価の段階を実務で支えるツールとして、AIガバナンスの構築を検討する際の選択肢の一つになります。
自社のAIガバナンスを整え、AX推進に取り組む際には、SamuraiAXの公式サイトをご覧いただき、資料請求をご検討ください。