AX室とはAI変革を全社横断で推進する経営直下の専任組織

AX室とはAI変革を全社横断で推進する経営直下の専任組織

AX室とは、AIによる変革を全社横断で推進する専任組織です。特定の部署のAI活用にとどまらず、全部署を対象に、AIを前提とした業務の再設計を進めます。名称は企業ごとに異なり、「AX戦略室」「「AX推進室」「AX戦略統括部」などが使われています。

AIツールは、すでに多くの企業の業務に入っています。しかし、「効果的な活用方法がわからない」など、ツールは現場に入ったものの、全社としてどう使うかが決まっていない企業が多く残っているのが現状です。

この状態では、AI活用は各部署の裁量に委ねられます。使う部署と使わない部署に分かれ、どの情報をAIに渡してよいかの判断も現場ごとにばらつきます。

そこで、全社を見て、進める範囲と止める範囲を決め、現場が自分で使える状態まで持っていくという役割を担うために置かれるのがAX室です。

AX室が担うのは、以下の3つの機能です。

① 実装:業務フローをAI前提で作り替える

② 整備:AIが安定して動く環境とルールを用意する

③ 育成:全社員のAI活用レベルを引き上げる

ただし、組織を作れば機能するわけではありません。「誰を入れるか」「どこに置くか」「設置後に何を測るか」まで決めて、初めて動き出します。

この記事では、AXプラットフォーム「SamuraiAX」の開発を手がける株式会社Kivaに所属する筆者が、国内企業のAX室設置事例をはじめ、AX室の役割から人材要件、設置後の運用までを詳しく解説します。

AX室とは「AI変革を全社横断で推進する経営直下の専任組織」

まず、AX室とは何かを理解するために、実際に国内企業が設置しているAX室、あるいは同様の役割を持つ組織を一覧でまとめましたので、以下をご覧ください。

◆国内企業のAX組織一覧

企業名

組織名

設置時期

公表されている主な役割

株式会社クラウドワークス

AX戦略室

2025年6月1日

AXにおける専門的知見を全社から集約する。ボトムアップとトップダウン双方からのAI導入を全社横断で推進する。「実装」「環境整備」「AI人材育成」を体系的に推進する

株式会社令和トラベル

AX室(AIトランスフォーメーション室)

2025年10月1日

AIのイネーブルメント組織として、全社員・全部署のAI活用レベルアップをサポートし、全社のAIトランスフォーメーションを推進する

アフラック生命保険株式会社

AX戦略統括部/AX開発部

2026年1月1日

AIを主軸とした先進技術を活用したビジネス変革(AX)を全社で推進する(AX戦略統括部)。AI技術の進化が激しい状況に迅速かつ効率的に対応する(AX開発部)

株式会社ラルズネット

AX推進室

2026年4月21日

社長直轄のもと、全部署・全職種におけるAIエージェントのための環境整備と、AI活用を前提とした業務フローの再設計を行う

出典:株式会社クラウドワークス株式会社令和トラベルアフラック生命保険株式会社株式会社ラルズネット

上記4社が組織を設置または公表した時期は、2025年6月から2026年4月までのおよそ1年間に収まっています。業種も規模も異なる企業が、この期間に同じ性格の組織を新設しました。なかでもアフラック生命保険は、AX戦略統括部とAX開発部の新設と同時にDX推進部を廃止しており、既存のDX組織に追加するのではなく置き換える形をとっています。

AX室は、AX(AIトランスフォーメーション)を全社規模で進めるための専任組織です。AXとは、AIを効率化ツールとして導入することではなく、AIを前提に事業構造や組織のあり方そのものを変える取り組みを指します。

一覧表の4社に共通するのは、AI活用の対象を特定の部署に限定せず、全社を対象範囲として明記している点です。担当者が個々に効率化を進める状態と、専任組織が全社の変革を設計する状態では、取り組みの範囲も到達点も異なっており、AX室は後者を担います。

AX室は、まだ定着した組織名ではありません。一覧表のとおり名称は企業ごとに分かれており、「室」か「部」かは担う機能の広さと対応していません。もし、他社事例を調べるときや社内で設置を提案するときは、組織名ではなく、その組織が何を担っているかを確認する必要があります。

なお、AX(AIトランスフォーメーション)そのものについては、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてぜひご覧ください。

関連記事:AXとは「AI導入で業務や事業の進め方を変える取り組み失敗しない「AX戦略の進め方」の4ステップと実践ポイント

AX室の役割は「実装」「整備」「育成」の3機能に集約される

ここでは、AX室の実際の役割を、3つの機能に分けて解説します。

◆AX室の3つの機能

機能

担うこと

事例

① 実装

業務プロセスをAI前提で作り替え、実際に動く形にする

・全社横断のAI実装支援(クラウドワークス)

・AI活用を前提とした業務フローの再設計(ラルズネット)

・AX開発部の新設(アフラック)

② 整備

AIが動く環境、ツール、ルールを用意する

・必要なリソースやツールの提供や環境整備(クラウドワークス)

・確認ポイント、承認フロー、ガードレールの一体的な設計(ラルズネット)

③ 育成

全社員のAI活用レベルを引き上げる

・定期的なAIツール研修の実施と定着支援(クラウドワークス)

・全社員のAIリテラシー、AIスキルの向上(令和トラベル)

以下に、各機能について解説します。

機能① 「実装」は業務フローをAI前提で作り替えること

AX室が担う3機能のうち、成果に直結するのが実装です。AX室は、既存の業務手順を保ったままAIを部分的に足すのではなく、AIが担う前提で手順そのものを引き直します。株式会社ラルズネットのAX推進室は、AI活用を前提とした業務フローの再設計を役割として明記しています。

AX室が実装を外部や情報システム部門に切り出すと、要件を出す側と作る側が分かれ、現場の実態が反映されないまま止まります。

アフラック生命保険株式会社がAX戦略統括部と別にAX開発部を新設し、AI技術の進化が激しい状況に迅速かつ効率的に対応することを目的として掲げているのは、実装を戦略と同じ枠内に置いた形といえます。

機能② 「整備」はAIが安定して動く環境とルールを用意すること

AX室の役割としての「整備」は、実装が成立するための土台を用意することです。ツールやリソースを配るだけでなく、「どの業務を誰が担い」「どこで人が確認し」「どこで承認するか」という運用ルールまでを設計範囲に含めます。

株式会社ラルズネットのAX推進室は、業務ごとに役割分担と実行手順を定め、ツール連携のあり方を整理したうえで、確認ポイント、承認フロー、ガードレールまでを一体で設計するとしています。あわせて、ログや観測、評価のデータを継続的に取得し、人が早期に軌道修正できる仕組みを組み込む方針を示しています。

AX室が整備を担わないまま実装だけが進むと、動いてはいるが誰も検証できない業務が社内に残ります。

機能③ 「育成」は全社員のAI活用レベルを引き上げること

AX室は、自らが手を動かす範囲を超えて成果を広げるために育成を担います。AX室の人数には限りがあるため、各部署が自力でAI活用を進められる状態をつくらない限り、対応できる業務は増えません。

株式会社令和トラベルのAX室は、自らをAIのイネーブルメント組織と位置づけ、全社員のAIリテラシーとAIスキルの向上を土台に掲げています。そのうえで、部署ごとに生産性向上を目指す業務と改善目標を定め、AI活用による業務自動化に取り組むことを支援する形をとっています。

AX室が育成を研修の実施だけで終わらせると、受講後に各部署が何をするかが決まらず、AI活用は個人の裁量に戻ります。部署ごとの目標に紐づけて初めて、育成は実装につながります

参考:株式会社クラウドワークス株式会社令和トラベルアフラック生命保険株式会社株式会社ラルズネット

AX室の人材要件は「AIの専門性」「現場の業務理解」「社内の統括」「リスクの判断」

ここでは、AX室にどのような人材を入れる必要があるのかを、4つの要件に分けて解説します。

◆AX室の人材要件

要件

具体的に求められること

欠けると何が起きるか

① AIの専門性

対象の業務にAIを適用できるかどうかを判断できること

各部署の要望をそのまま外部に流す窓口になる

② 現場の業務理解

現場で実際に何が起きているかを知っていること

動くけれども現場が使わない仕組みができる

③ 社内の統括

他部署に業務のやり方の変更を求められること

AX室からの依頼が部署間の調整案件になる

④ リスクの判断

どこまでAIに任せてよいかの線を引けること

現場が判断を仰げる先を持たず、AI利用が止まるか、ルール外の利用が広がる

AX室は、これらを1人ではなくチーム全体で満たす組織です。すべてを備えた人材を探すと、人選は止まります。

「① AIの専門性」は、ツールへの詳しさとは別物です。求められるのは、対象の業務にAIを適用できるかどうかを判断できることです。この判断ができる人材が内部にいない場合、AX室は各部署から上がってきた要望をそのまま外部へ流す窓口になってしまいます。

一方で、専門性だけでは業務フローを引き直せません。どの手順が何のために存在しているかを知らないまま設計すると、結局現場が使わない仕組みができあがります。「②現場の業務理解」は、その業務を実際に回している人からしか入りません。

「③ 社内の統括」は、AX室が他部署に業務のやり方の変更を求める組織であることに由来します。同じ依頼でも、誰が言っているかで通り方が変わります。メンバーが実務担当者だけで構成されていると、AX室からの依頼は部署間の調整案件として扱われ、優先度が下がります。

「④ リスクの判断」も重要な要件の一つです。AX室は各部署のAI活用を進める組織ですが、進めてよい範囲を決めるのもAX室です。どの情報をAIに渡してよいか、どの判断に人が入るかを決められる人材がいないと、現場は判断を仰げる先を持ちません。その結果、慎重な部署はAI利用を止め、そうでない部署はルールの外で使い始めます。

これらのうち、社内で最も不足しやすいのはAIの専門性です。採用で埋める場合、AX室が動き出す時期は採用の進み方に左右されます。立ち上げ期だけ社外の専門人材を入れ、並行して社内の人材を育てる方法もあります。

AX室が機能しない原因は「相談が来ない状態」にある

AX室は新設された組織です。現場から見れば、何をする部署で、どう関わると自分の業務が変わるのかが分かりません。この状態でAX室に届くのは、各部署から上がってきた要望だけです。要望は、現場がすでに解決策を思いついた課題にすぎません。AX室が本来つかむべきなのは、現場が解決策を思いつけずにいる課題のほうです。

相談が来ない理由をスキル不足と考えると、対処は研修になりますが、研修を実施しても相談は増えません。相談しない人は、やり方を知らないのではなく、相談してよいのかどうかを判断できずにいます

筆者の知人に、製造業のDX推進部門でAI導入を進める担当者がおります。DX推進部門という名称ではあるものの、事実上AX室に近い立ち位置で機能している部署です。知人の話によると、現場の人間との間で以下のようなやり取りがあったそうです。

◆現場の人間とAX担当者(知人)のやり取り

現場「この作業、AIでどうにかなりますかね。毎月、手で転記しているんですけど。」

AX担当者「なりますね。いつからやっているんですか。」

現場「3年前からです。こんな細かい話を持っていっていいのか分からなくて。もっと大きい案件を扱う部署だと思っていました。」

現場がAX室に相談に来ない主な原因として、以下のようなものが考えられます。

◆相談が来ない主な原因

  • AX室が何をする部署か知られていない

  • 相談してよい内容の範囲が分からない

  • 相談すると自分の仕事が増えると思われている

  • 相談先が申請フォームや窓口になっており、その手前で止まる

いずれもスキルの問題ではありません。AX室が相談を待つ側に立っている限り、この状態は続きます。そのため、AX室は現場の課題が上がってくるのを受け身で待つのではなく、積極的に現場にアプローチしていくことが必要になります。

◆AX室が相談を集めるために取る手段

  • 相談の場を、頻度を高くして定期的に設ける

  • 些細な内容でよいことを明示する

  • 申請ではなく会話の形式にする

  • AX室から現場の会議に出向く

相談が集まると、現場が何につまずいているかが見えます。ここから底上げに進みますが、段階を分ける必要があります。

まずは、全員がツールの操作を一度は経験する状態を作ります。次に、部署をまたいで活用方法を共有し合い、自分の業務への当てはめ方を互いに持ち寄ります。そして最後に、業務プロセスそのものを、人とAIが協業する前提で再設計します。

段階を飛ばして業務プロセスの設計から始めると、現場は業務の再設計を自分の業務に引きつけて考えられません。3つの段階を経て、AX室は教える役割から現場と自走する役割へ移ります。

AX室の成果は「AI活用レベル」で測る

ここでは、AX室設置後に、何を指標として成果を図るべきか解説します。

◆AX室が扱う3種類の指標

指標

具体例

何が分かるか

活動量

研修の実施回数、導入したツールの数、相談件数

AX室が働いたかどうか

AI活用レベル

誰がどのツールをどの頻度で使っているか、部署ごとの活用度

全社が変わったかどうか

業務成果

生産性、自動解決率、コスト

事業に効いたかどうか

特に重要な指標となるのが、「AI活用レベル」です。旅行代理業を展開する株式会社令和トラベルは、2025年10月にAX室を設置しました。同社のAX室は、組織のAI活用レベルがどこにあるのか分からない状態からのスタートだったと振り返っています。

同社はまず、メンバー本人の自己認知と、ユニット長全員から見たメンバー評価のレベル感をヒアリングし、両者をすり合わせています。

そのうえで、目標との乖離と有効な支援を明らかにするために、AI利用状況とスキルマップを可視化したダッシュボードを提供しました。

◆令和トラベルのAX室が可視化したもの

  • メンバーごとのAI利用状況とスキルマップ

  • 部門ごとのAI活用数のモニタリング

可視化の目的は、AX室の成果を証明することではありません。次に誰へ何をするかを決めることです。

同社は利用が停滞しているメンバーに対して別のアプローチを用意する設計にしており、モニタリングはその判断材料として機能しています。測る単位についても、1回使ったことがあるかどうかではなく、日常的に使っているかどうかを重視しています。

◆令和トラベルにおける成果

  • 1人1日平均20回のAI利用頻度

  • カスタマー問い合わせ自動解決率80%

  • 業務委託費50%削減

令和トラベルは高い生産性目標を掲げたうえでAX室を設立していますが、同社のAX室が日々追っていたのは、その手前にあるAI活用レベルでした。誰の利用が停滞しているかを見て、次の手を打つという積み重ねが、最終的な成果を上げるうえで重要になります。

参考:株式会社令和トラベル「AIファーストカンパニー化に向けてAX室(AIトランスフォーメーション室)を設立します」(2025年10月1日)、「AI活用率100%までの道のり ── AX室から見た組織変化と全社AI浸透の舞台裏」(2026年3月4日)

まとめ

AIの性能は、どの企業も同じものを使えますが、差がつくのは、それを業務にどれだけ速く組み込めるかです。この速度は、AIに詳しい人が各部署で個別に工夫している状態では上がりません。

誰かが全社を見て、どこから手をつけるかを決め、現場が自分で使える状態まで持っていく必要があります。AX室は、そのために置かれる組織です。

しかしながら、その組織を自社だけで立ち上げられる企業は多くありません。AIの専門性を持つ人材は社内にいないことが多く、採用で埋めようとすれば、AX室が動き出す時期は採用の進み方に左右されます。そこで、外から補うことも現実的な選択肢となります。

弊社が提供する「SamuraiAX(サムライエー エックス)」は、企業のAXをまるごと推進するサービスです。全部署を横断するAX室を経営直下に設置する立ち上げ支援から、業務の棚卸しと優先度の設定にもとづくAXロードマップの策定、実行までを一気通貫で担います。支援にあたるのは、元大手経営層やCDO・CIO出身者のAX顧問とAXスペシャリストです。

AX室の立ち上げを検討している場合は、下記の公式サイトからお問い合わせ・資料請求を受け付けています。

SamuraiAX 公式サイト