CAIOとはAI戦略の策定・実装・リスク管理まで担う役職

CAIOとはAI戦略の策定・実装・リスク管理まで担う役職

CAIO(Chief AI Officer:最高AI責任者)とは、全社的なAI戦略の策定から実装、リスク管理までを統括する経営幹部であり、AIによる価値の創出と、安全な活用の両立を担う役割を指します。

AIが一部の業務だけでなく経営全体に関わるようになるなかで、AIの司令塔となるこの役割の重要性は高まっています。

一方で、国内の大企業を対象にした調査では、正式にCAIOを設置している企業は22%にとどまり、必要性に対して設置がまだ追いついていないのが現状です。

そのため、CAIOがどのような役割を担い、他の役職と何が違うのかを理解しておくことは、これからの企業のAI活用を考えるうえで重要になります。

この記事では、AXプラットフォーム「SamuraiAX」の開発を手がける株式会社Kivaに所属する筆者が、CAIOの設置事例を紹介するとともに、CAIOの役割や求められるスキルなどを分かりやすく解説します。

国内外のCAIOの3つの取り組み事例

まずは、CAIO(および同等の役割を持つ責任者)が実際にどのような取り組みを行なっているのかを、国内企業・海外企業・行政の3つの事例から紹介します。

事例① 博報堂DYホールディングス:グループ横断でAIをつなぎ、生成AIサービスを展開する

国内広告大手の博報堂DYホールディングスでは、2024年4月にグループ初のCAIO(最高AI責任者)を新設し、森正弥氏が就任しました。同時にAIの研究組織を立ち上げ、森氏が代表を兼任しています。

取り組みの中心は、多くのグループ会社に分かれているAIの知見やノウハウを横断的に集めて共有し、全社の力につなげることです。

具体的なサービスの一つが、生成AIを使った「バーチャル生活者調査」です。生成AIで多数の生活者の人物像をつくって意見を聞くことで、企業が消費者調査の前に無駄な項目を省き、効率的に調査できるようにするものです。

同社にはすでに技術を統括するCTOや、デジタル領域を担う役職がいますが、そのうえでAIに特化した責任者を別に置いた点も特徴です。

出典:博報堂DYホールディングス「「人間中心のAIアプローチ」とは何か デジタル領域の先駆者が語るAI活用の別解

事例② Levi Strauss & Co.:AIで需要予測と業務自動化を進め、人材育成にも広げた

米アパレル大手のLevi Strauss & Co.(米リーバイス社)は、2019年にカティア・ウォルシュ氏を最高戦略・AI責任者に任命しました。経営層の役職名に「AI」を掲げた初期の例の一つです。

同社では、ウォルシュ氏率いる戦略・AIチームが機械学習を使って価格設定や需要予測、業務の自動化に取り組んでいます。手作業だった業務を自動化し、店舗再開の判断で週に20時間、欧州の需要予測で月に40時間の作業時間を削減しました。

また、全社員を対象にした機械学習の研修も実施しています。小売や物流などの技術職以外も含めて、データ活用のスキルを学べる研修で、AIを使いこなす人材の育成を進めています。

出典:Levi Strauss & Co.「Reflecting on Strategy & AI With Katia Walsh」、「Training Our Employees for a Digital Future

事例③ デジタル庁:ルールと相談体制を整え、全省庁のAI活用を後押し

デジタル庁は2025年、政府機関が生成AIを使う際の指針をまとめ、各府省庁に「AI統括責任者(CAIO)」を設置することを定めました。

各省庁のCAIOは、生成AI導入の方針決定や運用状況の把握、リスク評価を統括し、職員向けの利用ルールを策定します。

これを支える仕組みとして、デジタル庁は高リスクかどうかを判定するシートを用意し、リスクが高い案件は有識者による「先進的AI利活用アドバイザリーボード」が助言し、各省庁の相談に応じる窓口も設けています。

これは、省庁ごとにばらばらだったAI活用を、政府全体で安全に進められるようにすることをねらいとしています。

出典:ITmedia NEWS「「AI統括責任者(CAIO)」を各省庁に設置 デジタル庁が生成AIガイドライン策定

国内の大企業でCAIOを設置している割合は22%

ここでは、国内企業でCAIOの設置がどこまで進んでいるかを、PwC Japanグループの調査データをもとに解説します。以下のグラフをご覧ください。

◆CAIOの設置状況(n=1,024)

CAIOの設置状況

PwC Japanグループが売上高500億円以上の企業の課長以上を対象に実施した調査では、正式にCAIOを設置している企業は22%でした。「CAIO」という名称ではないものの、同等の役割を持つ責任者を置く企業まで含めると60%になります。

ただし、設置していない企業の動きにも注目する必要があります。以下のグラフをご覧ください。

◆CAIO未設置企業の今後のCAIO設置予定(n=410)

CAIO未設置企業の今後のCAIO設置予定

未設置企業のうち、1年以内に設置を予定している企業は1%、3年以内でも2%にとどまり、残りの97%は数年内に設置する予定がないと回答しています。

AI責任者を置いて動く企業と、置かずに静観する企業とで状況は二極化しており、企業間の差が広がり始めています。

また、CAIOの設置は、AI活用の進み方にも差として表れています。

◆AI活用推進度

AI活用推進度

AI活用が進んでいると回答した企業の割合は、CAIOまたは同等の責任者を設置している企業のほうが、業務・技術・管理のいずれの領域においても未設置企業を20ポイント以上も上回っており、責任者を置いて全社で取り組む体制が、AI活用の成果につながりやすいことを示しています。

なお、この調査は売上高500億円以上の企業を対象としてるため、大企業におけるCAIO設置の実態として捉えておく必要があります。

本項のグラフ・データ出典元:PwC Japanグループ「CAIO実態調査2025―AI経営の成否を分けるリーダーの条件

CAIOの4つの役割

CAIOの具体的な役割は、主に以下の4つに分けられます。

◆CAIOが担う4つの役割

① 価値創出

② リスク管理

③ 人材育成

④ 推進・浸透

これらの役割について、一つずつ詳しく解説します。

役割① 価値創出:AIを事業の成果に結びつける

CAIOの1つ目の役割は、AIを使って事業の成果を生み出すことです。どの業務やサービスにAIを使うのか、どの順番で取り組むのかという全社のAI戦略を描き、限られた予算や人材をどこに使うかを決めます。

AI活用は、現場ごとの試験的な取り組みにとどまると、成果が見えにくくなりがちです。CAIOは、効果が見込める使い方を見極めたうえで、優先順位をつけ、投資に見合う成果が出ているかを確認しながら進めます。

役割② リスク管理:AIを安全に使う仕組みを整える

2つ目は、AIを安全に使うための仕組みを整える役割です。AIには、誤った内容を出力したり、情報が漏れたり、偏った判断をしたりするリスクがあります。これらを各部門の判断任せにすると、トラブルが起きてAI活用そのものが止まってしまう可能性があります。

そのため、CAIOは社内のAI利用ルールを定めて周知し、リスクの高い使い方には事前の確認や歯止めとなる仕組みを設けます。

ルール設計において重要なのは、ルールがAIの利用を妨げるためのものではなく、安心して使い続けるための土台になるように設計する点です。

役割③ 人材育成:AIを使いこなす人と組織を作る

3つ目は、AIを使いこなす人材を育てることです。ただし、この役割で重要な点は、AIの専門人材を採用・育成するというだけでなく、すべての社員が業務でAIを使えるよう、社内全体のAIリテラシーを底上げすることです。

技術職に限らず、業務を理解したうえでAIの使い方を考えられる人材を増やすことも、この役割に含まれるのです。

役割④ 推進・浸透:AI活用を全社に広げ、定着させる

4つ目の役割は、AI活用を組織全体に広げて定着させることです。AIはツールを導入するだけでは定着しません。そのため、業務の進め方や組織のあり方そのものを見直す必要があります。

CAIOは、経営層と現場、各部門、さらには外部の協力会社の間に立ち、活用を後押しする調整役を担います。

部門をつないで全社の足並みをそろえることで、各部門がばらばらに、管理の行き届かない形でAIを使う状態を防ぎやすくなります。

CAIOと混同されやすい4つの役職との違い「CIO」「CTO」「CDO」「CDXO」

ここでは、CAIOと混同されやすい「CIO」「CTO」「CDO」「CDXO」の4つを取り上げ、それぞれの担当領域とCAIOとの違いについて解説します。まずは、以下の比較表をご覧ください。

◆CAIOと4つの役職の比較

役職

主な担当領域

概要

CAIO(最高AI責任者)

AIの戦略・活用とリスク管理

AIで価値を生み、安全に使う

CIO(最高情報責任者)

社内の情報システム・ITインフラ

社内ITの土台を作る

CTO(最高技術責任者)

技術戦略全般・製品開発

技術で製品や事業をつくる

CDO(最高データ責任者)

データ戦略・品質・活用

データを資産として活かす

CDXO(最高デジタル変革責任者)

デジタル変革(DX)の推進

デジタルで業務・事業を変える

4つの役職は、CAIOと重なる部分も多いですが、明確な違いは、AIに特化しているかどうかです。以下に一つずつ解説します。

「CIO」との違い:CIOは社内ITの土台を作り、CAIOはそのうえでのAI活用

CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)は、社内の情報システムやITインフラを安定して動かすことを担います。

CAIOは、その土台の上でAIをどう活用し、成果につなげるかを担います。AIはITの上で動くため両者は重なりますが、目的が異なります。

例えば、社内に生成AIを導入する場面では、安全に使えるシステム基盤やアクセス権限を整えるのがCIO、その基盤を使ってどの業務にAIを取り入れ成果を出すかを決めるのがCAIO、というイメージです。

「CTO」との違い:CTOは技術全般を統括、CAIOはAIに集中する

CTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)は、企業の技術戦略全般や製品開発を統括します。扱う技術は幅広く、AIはそのうちの一つです。

CAIOは、その中でもAIに絞り、事業への活かし方とリスク管理に集中します。企業によってはCTOがAIの推進を兼ねることもあります。

「CDO」との違い:CDOはデータを整え、CAIOはそのデータを使う

CDO(Chief Data Officer:最高データ責任者)は、社内のデータ戦略や品質管理、活用を担います。CAIOは、そのデータを使ってAIを動かす立場になります。AIの精度はデータの質に影響されるため、両者の関係は特に密接です。

そのような関係性から、データの担当者がAIの推進を兼ねる企業も少なくありません。

「CDXO」との違い:CDXOはDX全体を推進、CAIOはその中のAI領域を担当

CDXO(Chief Digital Transformation Officer:最高デジタル変革責任者)は、デジタル技術を使った業務や事業の変革、いわゆるDX全体を推進します。

AIはDXを進めるうえで中心的な手段の一つであり、CAIOはそのAI部分を専門に担います。DXという大きな枠の中で、AIに特化した役割がCAIOだと考えると分かりやすいです。

このように、CIO・CTO・CDO・CDXOはそれぞれ担当領域が異なり、CAIOはAIという一点に特化している点で区別されます。ただし、AIはITやデータ、DXと切り離せないため、CAIOはこれらの役職と連携しながら役割を果たすのが基本です。

CAIOには「技術」「経営」「リスク」「推進」のスキルが求められる

CAIOに求められるスキルは、以下の4つに集約されます。

◆CAIOに求められる4つのスキル

スキル

内容

AIへの技術的な理解

機械学習や生成AIなどの技術的な理解。AIで何ができて何が苦手か、どんなリスクがあるかを判断し、実務に落とし込む

経営・事業につなげる視点

AIを事業の成果や戦略に結びつけ、投資に見合う効果かを見極める

リスク・法務・倫理の知識

AIのリスクや関連するルールを理解し、安全に使う判断ができる。トラブルが発生した際の説明責任も負う

組織を動かす推進力

部門を巻き込み、変化を前に進めるリーダーシップとコミュニケーション

このように、CAIOには性質の異なる力が同時に求められることが分かります。技術にだけ強くても事業の成果にはつながりにくく、経営の視点だけではAIのリスクを見抜けません。技術と経営の両方をつなぐ立場であるため、幅広いスキルが必要になります。

ただし、これらすべてを一人で高い水準で備えている人材は多くなく、なかなか見つけづらい面もあります。その際は、CAIO自身の強みを軸にしながら、足りない部分をチームや外部の力で補うのが良いでしょう。

CAIOの確保には「社内育成」「外部採用」「外部活用」の3つの方法がある

実際にCAIOを確保する代表的な方法として、以下の3つが挙げられます。

◆CAIOを確保する3つの方法

① 社内育成:CIOやCDO、事業部門の責任者など、社内の人材にAIの知見を補って任命する

② 外部採用:AIの専門性と経営の経験をあわせ持つ人材を、外部から迎える

③ 外部活用:顧問やパートナーの支援を受けて、不足するスキルや実行力を補う

どの方法が適しているかは、企業の規模やAI活用の段階によって変わります。自社の状況に合わせて、これらを組み合わせるのが基本です。

特に人材が限られる企業では、すべてを社内でそろえようとせず、外部の支援を取り入れながらAI活用を進める方法が現実的といえます。

まとめ

国内では、正式にCAIOを設置している企業はまだ多くありません。しかし、AIが一部の業務から経営全体のテーマへと広がるなかで、その司令塔となるCAIOの重要性は今後より一層高まっていきます。

海外企業や行政では設置が進み、日本でも行政が各府省庁にCAIOの設置を求め始めました。今後、AIを経営に取り込む企業とそうでない企業の差は、さらに開いていくと考えられます。

CAIOを置く、あるいはその機能を整えるうえで課題になるのが、決めた方針を現場のAI活用として実装し、成果につなげることです。必要なスキルや実行力を社内だけで揃えるのは簡単ではなく、外部の支援を取り入れることが現実的な選択肢になります。

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