AX投資のROIの計算式と考え方(無料試算シート付き)

AX投資のROIの計算式と考え方(無料試算シート付き)

AX投資のROI(投資利益率)は、対象業務や前提の置き方で結果が大きく変わるため、「AX投資のROIは平均何%」という一般的な数値は存在しません。投資判断に使えるのは、自社の投資額と効果額を置いて試算した数字だけです。

しかし、その試算と評価の仕組みが整っていない企業もあります。PwC Japanグループの調査によると、日本企業の生成AI活用・推進度は87%に達した一方で、活用の効果を「まだ評価できていない」とする割合は13%と、米国の0%や他国の数%に対して高い水準です。

また、施策の実施から1年以内の効果発現を想定する割合は米国の66%に対し日本は41%で、効果が出るまでに時間がかかると見ている企業が多いことも分かります。

出典:PwC Japanグループ「生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較」

効果が出るまでに時間がかかる投資ほど、事前に「いくら投じて」「いつ」「どれだけ戻るのか」を数字で示し、導入後にその数字を検証する仕組みが必要です。そのため、ROIの試算は、AX投資の判断と事後の評価を同じ土台で行うために欠かせません。

この記事では、AXプラットフォーム「SamuraiAX」の開発を手がける株式会社Kivaに所属する筆者が、AX投資のROIについて詳しく解説します。

また、本記事では、ROIを簡単に算出できる試算シートを無料でダウンロードできます。記事では、試算シートとあわせて解説しますので、ぜひ次項で試算シートをダウンロードのうえご利用ください。

10分でAX投資のROIを算出できる試算シートダウンロード(無料)

まず、本記事をご覧の方のために、Excelの「AX投資のROI試算シート」を用意しました。登録不要で、以下から無料でダウンロードできます。

◆AX投資のROI試算シート

→ ダウンロードはこちら(21KB / .xlsx形式)

AX投資のROI試算シートは、導入コストと削減効果を入力すると、3年累計のROIと投資回収期間を自動で計算するExcelファイルです。

記入シートでは、初期費用、年間運用費用、対象業務ごとの削減効果、利用定着率の4つを順に入力します。入力が終わると、年ごとの削減額と投資額、単年と3年累計のROI、投資回収期間が表示されます。

本記事では、この試算シートをもとに、各項目に何を入れるべきか、なぜこの計算式なのかについてなど、詳しく解説してまいります。

ROIと投資回収期間の計算式

ここでは、試算シートが採用しているROIと投資回収期間の計算式と、結果の読み方を解説します。

◆ROIと投資回収期間の計算式

ROIと投資回収期間の計算式

ROIは、効果額から投資額を引いた純効果を、投資額で割った割合です。効果額は、削減した作業時間を人件費に換算した金額で、利用定着率を掛けて算出します。

投資額は、初期費用と対象期間中の運用費用の合計です。単年ROIなら初期費用と1年分の運用費用、3年累計ROIなら初期費用と3年分の運用費用が投資額になります。

単年ROIは1年目に低く出るため、3年累計を主指標にする

AX投資は、費用が先に出て、効果が後から出てきます。導入・設定や研修などの初期費用は1年目にまとめて計上され、一方で利用の定着には時間がかかるため、1年目の効果額は満稼働時の一部にとどまります。単年のROIだけを見ると、投資に見合わないように見えるのはこのためです。

利用定着率の上昇にあわせてROIがどう変わるか、本記事でダウンロードできる試算シート内の「記入例シート」の数値で確認します。以下をご覧ください。

◆記入例シートの結果(数値はすべて仮の値)

1年目

2年目

3年目

3年累計

利用定着率

40%

70%

85%

年ごとに設定

効果額

1,146万円

2,006万円

2,436万円

5,588万円

投資額

1,120万円

420万円

420万円

1,960万円

ROI

2%

378%

480%

185%

3年累計ROIは、単年ROIの平均ではなく、3年分の効果額と投資額をそれぞれ合算してから計算しています。1年目の投資額が大きいのは初期費用700万円を含むためで、この初期費用が3年累計の分母にも残ります。

1年目のROIは2%ですが、3年累計では185%です。稟議や投資判断においては、単年の数字だけを示すと、初期費用の重さで投資が否定されるか、逆に2年目以降だけを切り出して過大に見えるかのどちらかになります。

そのため、3年累計を主指標にし、単年の値を併記するのが、投資の実態に近い見せ方になります。

投資回収期間は、毎月の純効果(効果額から運用費用を引いた額)を積み上げて、初期費用を回収できる月を示します。試算シートの記入例では11.6か月です。

1年目が赤字でも、2年目以降に定着率が上がれば回収できることがあり、シートはその月数を表示します。3年以内に回収できない場合は「3年以内に回収不可」と表示されるので、定着率や対象業務の前提を見直す目安になります。

なお、効果額は削減した作業時間を人件費に換算した金額で、人件費の支出がその分だけ減ることではありません。また、割引率や税金は考慮しない簡易法であるため、厳密な評価が必要な場合は、財務部門の基準で別途計算してください。

事項からは、ROIの計算式を構成する「投資額」と「効果額」について、詳しく解説してまいります。

AX投資の「投資額」は初期費用と運用費用に分け、8つの項目で整理する

ここでは、試算シートの投資額に入れるコスト(投資額)項目を、初期費用と運用費用に分けて解説します。

◆試算シートの8つのコスト項目

項目

内容

① ライセンス初期費(初期費用)

初期設定費や、初年度に一括で支払うライセンス費。月額課金のみの場合は0

② 導入・設定費(初期費用)

ベンダーに支払う導入支援、システム接続、ワークフロー構築などの費用

③ 研修・伴走費(初期費用)

利用者研修や、推進担当者向けの伴走支援のうち、導入時に一括で支払う分

④ データ整備費(初期費用)

AIが扱うマニュアル、FAQ、業務データなどの整備・移行にかかる外部費用

⑤ 社内の導入工数(初期費用)

要件整理、設定、テスト、社内説明などに社内メンバーが費やす時間の人件費換算

⑥ ライセンス年額(運用費用)

契約する全席分の年間費用

⑦ 伴走・保守費(運用費用)

継続的な伴走支援、保守、モデル更新への対応などの年間費用

⑧ 運用担当の内部工数(運用費用)

権限管理、ログ確認、社内問い合わせ対応、改善活動などに費やす時間の人件費換算

初期費用は1年目の投資額に一括で計上し、運用費用は1年目から3年目まで毎年計上します。導入時の見積額だけを投資額にしがちですが、ライセンス年額や伴走・保守費は2年目以降も続きます。

この「毎年かかる費用」の漏れを防ぐために、初期費用と運用費用を分けて洗い出す必要があるのです。

伴走費については、導入時の研修と、導入後の継続的な支援を分けて計上します。AXでは導入後の業務の作り替えに伴走が必要になるため、初期費用だけでなく運用費用にも伴走の枠を置いています。

なお、AXにおける「伴走」については、下記の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

関連記事:AXプラットフォームとはAI実行と伴走を一体で担うサービス

社内担当者の作業時間も人件費に換算して投資額に入れる

社員の作業時間は見積書には載りません。ベンダーへの支払いが発生しないため、投資額から抜けやすいコストです。

導入時には、要件整理、設定、テスト、社内への説明に、推進担当者や現場の担当者の時間が使われます。導入後も、権限管理、ログ確認、社内からの問い合わせ対応、改善活動に運用担当者の時間が継続的に使われます。

これらは人件費として実際に発生しているコストです。社員の作業時間を投資額から落とすと、投資額が実態より小さくなり、ROIは実態より大きく出てしまいます。

ライセンス費は使っていない分も投資額に入れる

また、ライセンス年額は、契約するライセンス数の全額を投資額に入れます。実際に使う人が少ない場合でも、未利用分を投資額から差し引きません。

投資額を全ライセンス分にし、効果額を定着率で下げる構造にすると、定着が進まなければROIが下がる、という実態がシート上に現れます。逆に、未利用分を投資額から除いてしまうと、定着しなくてもROIが下がらない試算になってしまいます。

AX投資の「効果額」は削減した作業時間を人件費に換算し、金額にできない効果は分けて扱う

次に、試算シートの効果額に入れる項目と、効果額として扱えない範囲について解説します。

◆試算シートの効果額の項目

項目

内容

入力の目安

1人あたり月間作業時間

対象業務に1人が1か月に費やしている現在の時間

可能であれば導入前に1か月程度実測する

削減率

AX導入後に減る見込みの作業時間の割合

減った時間のうち他の業務に振り向けられる分だけを入れる

対象人数

その業務を実際に担当している人数

ライセンスの席数ではなく、担当者の実数

時間単価

人件費ベースの1時間あたり単価

給与に社会保険料などの法定福利費や賞与を加えた額。給与の時給換算だけでは実態より低くなる

利用定着率

対象人数のうち、実際に業務で使い続ける人の割合

1年目は低めに置き、年を追って上げる。1〜3年目を別々に入力

AX投資において、年間の効果額は以下の計算式で算出します。

◆年間の効果額の計算式

年間の効果額 = 1人あたり月間作業時間 × 削減率 × 対象人数 × 12か月 × 時間単価

この値は、対象人数の全員が使い続けた場合(利用定着率100%)の年間効果額で、試算シートでは「満稼働時の年間効果額」として表示されます。各年の効果額は、この上限値に1年目から3年目それぞれの利用定着率を掛けて算出します。

削減率には他の業務に振り向けられる時間だけを入れる

効果額の前提で最も注意が必要なのが削減率です。もし、AXの導入で作業時間が月100時間減ったとしても、その100時間に使い道がなければ、人件費は減りません。減った時間を別の業務に充てることができて、初めてその時間は金額としての価値が出ます。

そのため、削減率には「減る見込みの時間」ではなく「減ったうえで他の業務に振り向けられる時間」の割合を入れることが重要です。振り向け先が決まっていない業務は、削減率を低く置くか、対象から外します。

ROIの効果額に入れるのは作業時間の削減だけ

AX投資の効果測定において、売上の増加や新しい事業の立ち上げなどの効果は、金額換算の前提の置き方で結果が何倍にも変わります。

そのため、ROIの効果額には含めず、事業計画などの別枠で評価するのが適切です。効果額に入れるのは、作業時間の削減のように、導入前に実測でき、人件費への換算根拠を示せるものに限ります。

本記事でダウンロードできる試算シートも、この考え方に沿って、効果額を作業時間の削減に絞って計算する設計にしています。

◆ROIの効果額に含めず別枠で評価する効果

効果

例

売上や顧客対応の改善

提案の質の向上、顧客対応の速度向上による受注増

新しい事業や収益の仕組み

新サービスの立ち上げ、収益構造の変更

金額にしにくい効果

品質向上、ミス削減、リスク低減、従業員の負担軽減

金額にできる効果だけをシートで計算し、できない効果は、処理件数やミスの件数など金額以外の別の形で示すと、数字の部分は根拠を説明することができ、数字にできない部分も評価から漏れることがなくなります。

AX投資のROI試算で押さえるべき4つのポイント

ここでは、投資額と効果額が揃ったあと、ROI試算を投資判断に使える形にするための4つのポイントについて解説します。

ポイント① 前提値には出所を併記する

削減率、利用定着率、時間単価は、入力する人の裁量で決まる数値です。例えば、稟議などでROIの結果だけを示すと、「その削減率の根拠は何か」という問いが必ず出てきます。

前提値ごとに、その出所を試算と並べて示します。導入前に実測した作業時間、ベンダーが提示した想定値、社内の過去のツール導入で記録した定着率、業界団体や調査機関の公表データなど、出所が明確であれば、数字の妥当性を前提の段階で議論できます。

出所がない前提値は、その旨を明記したうえで低めに置きます。

ポイント② 利用定着率を変えた複数のシナリオで示す

ROIの結果を1通りだけ出すと、前提のどれかが崩れた時点で試算全体の信用が落ちてしまいます。

特に利用定着率は、導入してみなければ分からない要素が大きい前提値なので、定着率を低めに置いたケース、標準のケース、高めに置いたケースの3通りで、ROIと投資回収期間がどう動くかを示します。

定着率を低めに置いた保守的なケースでも投資が成り立つなら、投資判断の根拠として強くなります。逆に、成り立たないなら、定着率を上げるための施策を投資計画に組み込む必要があると分かります。

ポイント③ AX以外の要因による変化を分ける

作業時間の減少がすべてAXの効果とは限りません。同じ時期に人員配置の変更、業務フローの見直し、別のツールの導入があると、どの施策でどれだけ減ったのかを分けられなくなります。

対象業務を選ぶ段階で、AX以外の変化が少なく、導入前後で作業時間を実測できる業務に絞ります。対象を広げて効果額を大きく見せるより、効果を測定できる業務に絞るほうが、判断材料としての信頼性は高くなるためです。

ポイント④ 導入後に実測値で計算し直す

導入前の試算は、あくまで予測ですので、導入後に削減時間と定着率を実測し、四半期ごとなどの頻度でシートに入力し直して、予測との差を確認します。

そこで差が出た場合は、その原因が次の打ち手になります。定着率が想定より低ければ、利用が進まない部門や業務を特定して定着の支援を行い、削減率が想定より低ければ、業務の設計自体を見直します。

AXにおいては、この確認と改善の行程を繰り返すことで、ROIを予測値に近づけることができます。

まとめ

AX投資は、ツールの導入費だけでなく、業務の作り替えと定着の支援まで含めた投資です。金額が大きく、効果が出るまでに時間がかかる分、「いくら投じて」「いつ」「どれだけ戻るのか」を示せなければ、投資の判断も、導入後の評価もできません。

そのため、AX投資におけるROIは、推進する側と判断する側が同じ数字を見て議論するための共通の土台になります。

ただし、導入前に試算したROIは予測にすぎず、予測どおりに実現するかは、導入後に利用が定着するか、削減した時間が他の業務に振り向けられるかで決まります。これは計算式ではなく、現場での業務の作り替えと、その定着を支える体制の問題です。

株式会社Kivaが提供する「SamuraiAX(サムライ エーエックス)」は、AXワークフローの構築から導入後の定着・改善までを、AX顧問とスペシャリストが伴走する形で支援するAXプラットフォームです。

対象業務の選定、削減時間の実測、導入後の定着状況の確認といった、ROIの予測を実測に近づける工程を、社内の担当者と一緒に進めます。

AX投資の効果を数字で説明する必要がある方は、まずは本記事で無料ダウンロードできるROI試算シートで自社の数字を置いてみてください。

そして、その数字を実現する体制づくりについては、下記のSamuraiAX公式サイトから、お気軽にお問い合わせください。

SamuraiAX 公式サイト