AX投資の承認を得る稟議書の作り方(無料テンプレート付き)

AX投資の承認を得る稟議書の作り方(無料テンプレート付き)

AXの取り組みを社内で進めるには、まず投資の承認を得る必要があります。どれだけ準備した投資提案も、最終的には稟議書という形で決裁者のもとに届くため、AXを社内で通せるかどうかは、稟議書の作り方で大きく変わります。

AXの稟議が難しいのは、効果が試してみるまで確かめにくく、情報の取り扱いやAIの出力の誤りといった、AIならではの心配ごとも加わるためです。いきなり大きな金額の承認を求めると、決裁者はどうしても慎重になります。

そこで大切なのが、最初の稟議を試行の費用だけに絞り、「どうなれば本格導入に進むのか」という判断基準とセットで申請することです。試行が終わったら、実際に測った数字で本格導入の稟議を改めて出します。

この記事では、この流れに沿ったAX投資の稟議書テンプレートを、無料でダウンロードできます。登録は不要で、記入例も付いています。Word形式なので、自社の稟議書の書式に合わせてそのまま書き換えて使えます。記事では、テンプレートとあわせて解説しますので、ぜひ次項で無料テンプレートをダウンロードのうえご利用ください。

本日は、AXプラットフォーム「SamuraiAX(サムライ エーエックス)」の開発を手がける株式会社Kivaに所属する筆者が、AX投資の稟議書テンプレートをもとに、社内でAXを通すための稟議書の作り方を解説します。

AX投資の稟議書を作成できる無料テンプレートダウンロード

ここでは、AXを通すための投資提案の稟議書テンプレートを無料ダウンロードできます。この稟議書テンプレートは、AXの取り組みを「試行」と「本格導入」の2段階に分けて申請するための、稟議書の下書き用Wordファイルです。

決裁者が読む本紙2ページと、効果額の算出やリスク対策の詳細を書く別紙で構成しています。登録不要で無料ですので、以下からダウンロードしてご利用ください。

◆AX投資の稟議書テンプレート

→ ダウンロードはこちら(40KB / .docx形式)

本テンプレートの構成は以下の通りです。

◆テンプレートの構成

部

内容

記入用(本紙)

申請概要から代替案との比較まで、決裁者が判断に使う10項目

記入用(別紙1)

効果額と投資額の算出。計算式つき

記入用(別紙2)

リスクと対策、統制と運用体制

記入例

架空の案件で本紙と別紙を記入した例

記入用の各欄には、何を書くかを示すガイドを入れています。自社の稟議書の書式が決まっている場合は、転記する前の下書きとしてご利用ください。項目名や順番は、自社の書式に合わせて変えてかまいません。

このテンプレートでは、今回の決裁対象を試行に限り、本格導入は試行の結果を見て改めて起案する形にしています。なぜこの形にするのか、各項目に何を書くのかは、次項より解説していきます。

AX投資の稟議書は10項目を4つの段階で書く

ここでは、AX投資の稟議書の本紙に書く10項目と、各項目を記入する順番を紹介します。本紙は決裁者が読む順番に並んでいますが、記入は以下の段階で進めます。

◆4段階の稟議書の記入順

① 前提を固める → ② 数字を固める → ③ 判断の条件を固める → ④ 要約する

これは、前の段階で決めたことが、次の段階の材料になるためです。テンプレートの項目に照らし合わせてまとめると、以下の通りです。

◆本紙に書く10項目と記入する順番

記入の段階

項目

書く内容

① 前提を固める

2. 目的

AXで何を変えるか、削減した時間を何に振り向けるか

① 前提を固める

3. 現状の課題

対象業務の作業時間と、起きている問題

① 前提を固める

4. 実施内容

対象業務、利用するサービス、推進体制と期間

② 数字を固める

5. 投資計画

試行と本格導入、それぞれの費用

② 数字を固める

7. 期待効果

ROIと投資回収期間、金額で示さない効果

③ 判断の条件を固める

6. 次の段階に進む判断基準

試行で測る指標と基準値

③ 判断の条件を固める

8. 主なリスクと対策

決裁者に伝えるべきリスクと、その対策

③ 判断の条件を固める

9. 導入後の検証

実測値で効果を確かめる時期と報告先

③ 判断の条件を固める

10. 代替案との比較

実施しない場合、他の方法をとった場合との比較

④ 要約する

1. 申請概要

何を、いくらで決裁してほしいか

前提を固める段階では、「何をなぜ変えるのか」を決めます。対象業務と現状の作業時間が決まらないと、投資額も効果額も計算できません。

数字を固める段階では、投資計画と期待効果を書きます。判断基準より先に期待効果を固めるのは、試行で確かめるべきものが、期待効果の計算に置いた前提値だからです。例えば、作業時間の削減率を40%と置いたなら、試行の判断基準も削減率40%以上とします。

判断の条件を固める段階では、本格導入に進む条件と、うまくいかなかったときの備えを書きます。申請概要は、ここまでの内容を2〜3文に要約する欄なので、最後に書きます。

決裁者が読む本紙には結論だけを書き、計算の過程は別紙に分ける

本紙に書くのは、決裁者が判断に使う結論です。ROIであれば3年累計の値と投資回収期間を書き、効果額の計算式や業務ごとの内訳は別紙に回します。

AX投資の稟議書は、効果額の算出、費用の内訳、情報の取り扱いのルールなど、根拠として示す情報が多くなるため、これらを本紙にすべて入れてしまうと、決裁者が判断に必要な結論を探しにくくなります。

そのため、結論と根拠を分けておけば、決裁者は本紙で判断し、情報システム部門や経理部門などの関係部門は別紙で根拠を確認する、という読み分けができます。

本紙に結論だけを書くときは、その数字がどこから来たのかを示すために、「算出の根拠は別紙1のとおり」といった形で別紙への参照を添えます。

10項目のうち、AXの性質から書き方に注意が必要なのは、「6. 次の段階に進む判断基準」「7. 期待効果」「8. 主なリスクと対策」の3項目です。次に、この3項目の書き方を説明します。

AX投資の稟議書で書き方に注意が必要な項目(項目6・7・8)

AX投資の稟議書において、テンプレートの本紙10項目のうち、

「6. 次の段階に進む判断基準」

「7. 期待効果」

「8. 主なリスクと対策」

は、AXの性質から、書き方に注意が必要です。

◆書き方に注意が必要な3項目

項目

注意が必要な理由

書くこと

次の段階に進む判断基準

AIの出力の精度は、自社の業務とデータで試すまでわからない

試行で測る指標、基準値、判断の時期と判断する人

期待効果

AIの出力は人が確認するため、確認にかかる時間を差し引いた分しか作業時間は減らない

確認の時間を差し引いた削減率、3年累計のROI、慎重シナリオ

主なリスクと対策

AIの使い方と出力に固有のリスクがある

定着、情報の入力、出力の誤りへの対策

3項目について以下に解説します。

「次の段階に進む判断基準」は試行を始める前に、期待効果の前提値と同じ数字で決めておく

AIの出力の精度は、自社の業務とデータで試すまでわからないため、今回の決裁は試行に限り、本格導入に進むかどうかは試行の結果で判断します。判断基準がないまま試行を始めると、終わっても進めるかやめるかを決められず、試行のまま止まります。

基準値には、期待効果の計算に置いた前提値をそのまま使います。例えば、削減率40%で効果額を計算したなら、試行の基準も40%以上になります。

指標には作業時間のほか、利用の定着、品質、情報の取り扱いを加え、判断の時期と判断する人、基準に届かなかった場合の扱いも書いておきます。

「期待効果」は確認の時間を差し引いた削減率で計算し、慎重シナリオと並べて示す

AIが作業を代わりに行っても、その出力は人が確認してから次の処理に渡します。そのため、削減率には「AIの出力を確認する時間」を差し引いたうえで、他の業務に振り向けられる時間の割合を入れます。

確認の時間を含めずに計算すると、試行で実測したときに削減率が前提を下回ります。

1年目は利用定着率が低く初期費用も集中するため、単年のROIは低く出ます。本紙には3年累計のROIを書き、あわせて以下の2つのシナリオを並べます。

・基本シナリオ:最もありそうな前提で計算した結果

・慎重シナリオ:利用定着率を下げて計算した結果

テンプレートの記入例では、基本シナリオの3年累計ROIが185%、慎重シナリオが127%となっています。

削減率は試行の実測で確かめ、利用定着率の下振れは慎重シナリオで示す、と分けておけば、決裁者は主な前提のどちらが外れた場合も含めて判断できます。

なお、投資額と効果額の項目の洗い出し方やROIの計算式は、以下の記事で詳しく解説していますので、本記事とあわせてご覧ください。

関連記事:AX投資のROIの計算式と考え方

「主なリスクと対策」は「使われない」「入れてはいけない情報を入れる」「AIが誤る」の3つに絞る

本紙に書くのは、AIを業務で使うこと自体から生じる3つのリスクです。運用費の増加や提供会社への依存など、その他のリスクは、「リスクと対策、運用体制の資料」(テンプレートでは別紙2)にまとめます。

対策は「注意して使う」のような書き方ではなく、「誰が」「どの時点で」「何を確認するのか」まで書きます。例えば、出力の誤りであれば、AIが作成した仕訳データを経理部の担当者が確認・承認してから会計システムに登録する、という書き方です。

稟議書を提出する前の2つの準備

稟議書が書けたら、すぐに提出するのではなく、2つの準備をしておきましょう。関係部門への事前の確認と、決裁者への事前の説明です。

準備① 提出前に情報システム部門と法務部門にリスク対策の資料を見てもらう

AIを業務で使うと、社内の情報をAIに入力することになります。そのため、AX投資の稟議書は情報システム部門や法務部門にも回して、内容を確認してもらう必要があります。

この2つの部門が見るのは、主に以下の3点です。

◆情報システム部門や法務部門に確認する3点

・どの情報までAIに入力してよいか

・AIの出力を、誰がどのタイミングで確認するか

・操作の記録や利用者の権限をどう管理するか

どれも稟議書に添える「リスクと対策、運用体制」の資料(テンプレートでは「別紙2」)に書く内容です。

稟議書を回してから指摘を受けると、書き直して回し直すことになり、試行の開始が遅れるため、提出する前にこの資料を見てもらい、指摘があれば直しておきましょう。

事前に確認を済ませておけば、本紙の「主なリスクと対策」にも「情報システム部と法務部の確認を受けた対策」として書けるため、決裁者にとっても安心材料になります。

準備② 決裁者に「今回お願いするのは試行の費用だけ」と最初に伝える

決裁者が本格導入までの総額を見て判断すると、金額の大きさで慎重になってしまいます。テンプレートの記入例でいえば、3年間の投資額は1,960万円ですが、今回お願いするのは試行の220万円だけです。

申請概要の最初の文に今回の金額を書くのは、このためです。事前に説明できる場があれば、申請概要と判断基準を見せながら、「本格導入は、試行の結果を見てから改めて相談します」と伝えておきましょう。

説明の場で質問が出たら、稟議書のどこに答えを書いたかを示しながら答えます。

◆聞かれそうな質問と、答えを書いておく項目

聞かれそうな質問

答えを書いておく項目(テンプレートに基づく)

効果の数字は、誰がどうやって出したの?

前提値と出所(テンプレートでは別紙1)

うまくいかなかったら、どうするの?

次の段階に進む判断基準(本紙の6)

社外秘の情報が漏れない?

主なリスクと対策(本紙の8)、リスクと対策、運用体制(別紙2)

やらなかったら、何が困るの?

代替案との比較(本紙の10)

本格導入では、結局いくらかかるの?

投資計画(本紙の5)、投資額の内訳(別紙1)

提出の前に、この表の質問を自分に投げてみてください。答えられない質問があれば、その欄の書き込みが足りていないということです。

稟議書の「目的」と「リスク」の欄は、公的データで裏付ける

稟議書の説得力を上げるのに有効なのは、公的データの引用です。稟議書の「目的」や「主なリスクと対策」に、自社の考えだけを書くと、決裁者から「それは本当に必要なの?」と聞かれることがありますが、国の調査データを1つ添えておくことで、自社だけの思い込みではないことを示せます。

例えば、総務省の「情報通信白書」より、以下のようなデータを引用できます。

◆稟議書で使える公的データの例

データ

数値

使える欄

使い方

生成AIの活用方針を定めている日本企業の割合

68.9%(前年度は49.7%)

目的

1年で多くの企業が方針を定めており、今取り組む理由として示す

何らかの業務で生成AIを利用している日本企業の割合

86.4%

目的、現状の課題

業務でのAI利用がすでに一般的になっていることを示す

議事録・メール作成補助で、導入効果を実感している割合

約7割

実施内容(対象業務の選び方)

試行する業務を選んだ理由として示す。自社の削減率の根拠にはしない

日本企業が懸念する生成AIのリスク

1位:社内情報の漏洩などのセキュリティリスク、2位:出力結果の精度

主なリスクと対策

本紙で取り上げるリスクを選んだ理由として示す

全社的な指針やガイドラインを整備している日本企業の割合

41.1%

リスクと対策、運用体制

入力ルールを先に作る必要性を示す

出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」より、生成AIの活用方針等、生成AIの業務利用状況、懸念されるリスク及びリスク対策のための取組状況

公的データが役立つのは、自社の判断の理由を示す場面です。例えば、活用方針を定めた企業が1年で約5割から約7割に増えていることを示せば、今取り組む理由になります。

日本企業が最も懸念するのが情報漏洩、次が出力の精度であることを示せば、本紙でこの2つのリスクを取り上げた理由になります。

ただし、使い方で気をつけるのは、公的データを自社の効果の根拠にしないことです。例えば、議事録作成のデータは、試行する業務を選んだ理由としては使えますが、「だから自社でも削減率は〇%になる」という根拠にはなりません。効果の数字は、自社で測った作業時間と、試行で確かめる削減率で示します。

試行が終わったら、実測値で本格導入の稟議を出す

本記事は、AXの取り組みを「試行」と「本格導入」の2段階に分けて申請することを前提としています。ここでは、試行が終わったあとに出す2回目の稟議(本格導入の稟議)で、1回目から何を変えるかを解説します。

1回目の稟議は、まだ試していない段階での「見込み」ですが、2回目は、試行で実際に測った数字に置き換えて書きます。項目は同じですが、書く中身が変わります。

◆1回目と2回目の稟議で書く内容の違い

項目

1回目(試行の稟議)

2回目(本格導入の稟議)

申請概要

試行の費用の決裁をお願いする

試行の結果を報告し、本格導入の費用の決裁をお願いする

判断基準

試行で測る指標と基準値を決める

各指標の結果と、基準を満たしたかを報告する

期待効果

想定の削減率で計算する

試行した業務は実測の削減率に置き換える

利用定着率

想定で置く

試行中の利用状況をもとに見直す

リスクと対策

想定されるリスクと対策を書く

試行中に起きたことと、対策が効いたかを書く

投資計画

本格導入の費用は概算

見積もりを取り直した金額にする

例えば、AIの活用を、試行の段階では請求書処理の1業務だけ、本格的な導入段階では5業務に広げる場合、実測の削減率がわかるのは請求書処理だけであり、残りの4業務は、まだ想定のままです。

この場合、2回目の稟議では実測値と想定値を分けて書きます。「請求書処理は実測で〇%、ほかの4業務は想定の削減率のまま」のように書けば、決裁者はどこまでが確かめられた数字なのかがわかります。4業務の削減率を実測に合わせて上げたくなるかもしれませんが、根拠のない数字になるので避けましょう。

試行の結果、基準に届かない指標が出ることもあります。そのときに一番避けたいのは、結果を報告しないまま試行が終わってしまうことです。基準を満たさなかった場合も結果は報告し、そのうえで、以下のように判断します。

◆基準を満たさなかった場合の判断例

・作業時間の削減が基準に届かなかった場合:実測の削減率でROIを計算し直し、それでも投資に見合うかを判断する

・利用の定着、品質、情報の取り扱いの基準を満たさなかった場合:原因と対策を報告したうえで、試行をやり直すか、中止するかを判断する

この扱いは、1回目の稟議の判断基準の欄に書いておきます。あらかじめ決めておけば、結果が悪くても、次の一歩を迷わずに決められます。

まとめ

AXの取り組みを社内で通すうえで大切なのは、最初から大きな金額の承認を取りにいかないことです。まずは1つの業務で試し、その結果を見て本格導入を判断するという流れを稟議書の形にしておくことで、決裁者は「試してみる価値があるか」という小さな判断から始められます。

そのためには、試行の前に決めておく判断基準が重要です。何を測り、どうなれば次に進むのかが決まっていれば、試行が終わったあとに迷わず、2回目の稟議にもそのまま進めます。

とはいえ、判断基準を決めたり、試行中の作業時間や利用状況を測ったりするのは、推進担当者だけでは手が回らないケースもあります。

株式会社Kivaが提供するAXプラットフォーム「SamuraiAX」では、AX顧問とスペシャリストが、導入から定着まで伴走します。

ツールとしては、Microsoft 365上でClaude、Gemini、GPTなどのAIを業務の流れに組み込めます。各工程の間に人の承認を挟む設計や、操作記録と権限の管理の機能も備えているため、稟議書のリスク対策の欄に書く内容を、そのまま運用の仕組みとして用意できます。

AX投資の稟議書づくりや、試行の進め方に迷う場合は、ぜひ下記のSamuraiAX公式サイトからお気軽にお問い合わせ・資料請求ください。

SamuraiAX 公式サイト